高齢者や熟年世帯の移動の原因は、基本的にはバリアフリーで住み続けられる住宅ストックが不足していたことが、こうした需要に結びついた背景がありますが、それ以上に強い分譲マンションニーズは、賃貸利用者の持ち家化が急速に進んだことがあげられます。低金利、税制優遇など持ち家取得の容易さが、若い世代を中心に賃貸から持ち家へと指向させたと考えられます。それを裏付ける情報として、都市機構(旧都市公団)の賃貸住宅に大量の空き家が生まれていることが上げられます。低金利での融資合戦が賃貸住宅よりも持ち家を選択させた結果だといえるでしょう。とりわけ比較的家賃の高額な新しい住宅に空きが多いように見受けられます。
一方、低所得階層の入居を前提とした公営住宅については空き家が無く、入居が出来ない世帯が増えています。バブル期には空き家が多く発生して人気のない公営住宅の余剰が問題になっていたにもかかわらず、現状では不足状態が恒常化しています。住宅政策の不一致が見え隠れしますが、これらについては国レベルでの政策的な方策が必要です。現在、国の「社会資本整備審議会住宅宅地分科会」で新たな住宅政策に対応した制度的枠組みのあり方に関する検討が行われており、住宅セーフティネットの機能向上について議論されているところです。こうした結果を受けて方針の修正があると思われますが、多摩ニュータウンの大量の住宅資産を活かす為にはさらなる研究を重ねる必要があります。
今後、多摩ニュータウン開発から都市再生機構も東京都も関わらなくなる状況下で、さらに民間の分譲マンション供給は続くと思われます。現状での多摩ニュータウン内の既存分譲マンションは、新築マンションの大量供給にも関わらず、空き家はきわめて少なく、中古マンションの流通市場が活発に働いていて、ストックが有効に使われています。団塊世代を中心とした転出空き家に対して、30代を中心とした子育て世代が転入していることが、住まいの循環を生み出しているように思えます。
しかし、いつしか建物の老朽化が顕在化すると建替などの必要性にも迫られることになります。その時に多摩ニュータウンの人気が高まっていれば、建替に対して経済的な負担も少なくなりますが、もしも衰退の憂き目にあっていた場合は建替など及びもつかない状況になっている可能性もあります。こうした背景を共有した上で、多摩ニュータウンの居住者自身が活力ある多摩ニュータウンを育てるために協力することが求められているのだと考えます。
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