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第173回(2024年7月18日)

■ テーマ: 「多摩草むらの会 〜その理念と活動〜」
■講師: 風間 美代子(かざま みよこ)さん(NPO法人多摩草むらの会 代表理事)

多摩草むらの会は、障がい者の家族が集まって発足した「親の会」が、1997年(H9)に任意団体「多摩草むらの会」を設立。2004年(H16)には「NPO法人多摩草むらの会」として法人格取得しました。現在は同NPO法人に加えて、(福)草むら、(株)グリーン・ガーラ(農地保有適格法人)の3法人による構成となっています。

草むら3法人では、就労支援、自立生活支援、相談支援など様々な支援事業を、就労継続支援B型事業所8か所、就労移行支援事業所1か所、グループホーム2か所、相談支援事業所(一般、特定)2か所など多数の事業所で展開しています。多くの事業所名には「夢」という文字が使われていますが、統合失調症の方は「夢の中の人」と言われていたこともあり、「待夢(たいむ)」、「草夢(そうむ)」・・・など「夢」を入れたネーミングがされています。当会では障がいのある利用者を「メンバー」と呼んでおり、「(障がい福祉サービスを)利用させてもらう」のではなく事業所の一員として尊重し共に事業を進めようという姿勢が感じられます。

当日はビデオによる各事業所および会の活動のご紹介がありましたが、その内容は 多摩草むらの会のホームページでも詳細に紹介されていますので、そちらをご覧ください。
→ https://kusamura.org/
ここでは当日会場での意見交換の中から、活動の注目点や課題などについていくつか紹介します。

●様々な就労内容のB型作業所が8つあることで、メンバーのニーズに合ったマッチングが可能となる点が大変注目されます。障がい者の個性、障害の状況、スキルなどは多様であり、事業所の選択肢が多いことは、より当事者に合った就労の場との出会いが可能となり本人のやりがいにもつながります。また、別のB型作業所に関わる参加者からは、「利用者の高齢化により、これまでできていた作業ができなくなることで就労継続が難しくなる悩みがあるが、同じ法人内で別の事業所への移行が可能であれば就労継続につながり大変いいと思う。」との発言がありました。風間さんは、「メンバーにとって何がよいかを考えて選択肢を広げてきた」、結果として「これだけの事業所に広がった」と27年間を振り返っておられます。

●メンバーの年齢構成では40代、50代が多く全体の半数強を占めており、高齢の親御さんも多くなっています。自身の障がいだけではなく、ヤングケアラーとして親御さんの介護に直面したり、近年社会問題として取り上げられる「8050問題」、家族内で複数の問題を同時に抱える多問題家族のケースも見られ、家族全体に対するサポート、支援が必要になっているとのことです。

また、障がい者本人・家族を支援するとともに、障がい者が社会で安心して充実した生活をおくるためには社会の偏見を取り除かなければならない、とさらに様々な取り組みをされています。その一つとして、多くの人が自然に出会い触れ合う場として「モーニング」(1回/週、事業所で調理した食事各200円)も実施し、地域の方々の利用も多いとのことです。この取り組みは、「福祉の枠を超えて」社会で様々な困難を抱える方たちが立ち寄り、交流し、相談、支援などのきっかけとなる場となることも目指しています。

●多様な事業、事業所、約480名の登録利用者といった大きな法人運営は風間さんの信念と(参加者の言葉を借りれば)「柔軟な頭とフットワークの軽さ」によってけん引されてきたものと思いますが、加えて、様々な実績、スキルのある多くのスタッフや多様な分野の専門家とのネットワークが大きな力となっているようです。また、会を取り巻く地域との信頼関係を築くことも重要です。例えば、グループホームは関係者の理解を得にくいケースが多く見られますが、草むらの会ではこれまで2つのグループホームを設立しています。土地所有者、不動産業者、近隣住民など様々な立場の関係者の理解を得る努力や新たな関わりを築いていく熱意の成果だと思います。これまでの2つのグループホームは通過型(原則、入居から3年までの利用)であるため、将来的にはさらに滞在型グループホーム(入居期限はなし)の設立を目指したいとのことです。

この他にも、人材確保の難しさの要因の一つとなっている給与等処遇環境(注1)の課題、メンバーが受け取る工賃向上のため高い収益確保の経営的課題などにも触れていただきました。

事業所経営としては厳しい状況にあるとのことですが、「『これでいい』ということはなく、やることはまだまだいっぱいある。尽きることはない。」との言葉に、ソーシャルインクルージョン(注2)、ソーシャルファーム(注3)の実現を目指してこれからも走り続ける風間さんの姿が見えるようでした。

これまで障がい者福祉サービス事業について詳しく知る機会がなかった参加者にとっては、事業の現状や課題だけではなく、障がい者の様々な姿や思いを知る機会にもなりました。

(注1)事業所収入の基本となる障がい福祉サービスの報酬は国の定める報酬体系で定められている。
(注2)「社会的包摂」と訳される。誰もが分け隔てなく社会の一員として共に活動しながら支え合うこと。(社会福祉法人草むらHPより)
(注3)海外に多数存在する社会的企業の一つ。一般企業と同様の経済活動を行いながら、その職場では、就労に困難を抱える方も必要なサポートを受けながら他の従業員と共に働いている。(*2と同様)

風間さん、貴重なお話をありがとうございました。多岐におよぶ事業展開や様々な課題など大変盛りだくさんの内容でした。

(2024.7.31[Wed]記載)


第172回(2024年5月16日)

■ テーマ:「素晴らしき団地ワールド」
■講師:金丸典弘(かなまる よしひろ) さん(だんちぐみ(団地再生事業協同組合)代表理事)

金丸さんは多摩ニュータウン豊ヶ丘団地育ちの団地っこで、金融業界からバブル崩壊後に建設・不動産業界に転じ、20年間にわたり”建築家と唯一無二の空間をプロデュース”するという仕事をされてきています。住宅から施設、オフィス、店舗など幅広く手掛けておられます。また住宅リフォームのコンクールに応募して優秀賞をとられたり、国のマンションストック長寿命化等モデル事業に、「既存マンションの上部増築による、サービス付き高齢者向け住宅導入」をテーマにして採択されたりと、住宅や団地のリフォーム、リノベーションを通して、可能性を探求し提言しておられます。

2013年に、「団地再生事業協同組合」を設立され、建築・不動産事業者を組織し、建築家・クリエーター・個人投資家らとともに、団地の再評価や流通促進に取組んでおられます。

金丸さんは、実は木曜サロンは2度目の登壇になります。7年前の2017年の5月、第132回の木曜サロンで、「空き家のバリューアップで、団地に次世代の家族を呼び込む」というテーマでお話していただきました。本日のサロンはその延長上のさらに進化した取り組みを聞かせていただくことになりますが、当時の話題を軽く振り返っておきます。

7年前は「団地の空き家をお宝にかえる取り組み」という話題で、500万円程度の団地の空き家を買い取り、デザインリノベーションによって、付加価値をつけ、市場より2,3割高い1500万円程度で流通させるという話をされました。

当時話されたキーワードとして、FⅼowからStoⅽkへ、住みながら進化する中古市場の広がり、リフォームからリノベーションへ、多様性が認められる社会、モノからコトへ、価値の共有、ミレニアル世代がマーケットを主導するなどのことをあげられています。若い人たちの暮らしや価値感として”快適に引き籠る””ゆるく繋がる”ということがあり、共働き、在宅ワーク、副業、生涯独身などが当たり前になってくる時代がきていると指摘されていました。

当時からすでに団地再生が社会的な課題となっており、再生の手法はなかなか見いだせない状況でした。その中で、さし込む光とか、風通し、つながり、安心・安全、暮らしやすさなどの五感で感じる団地特有の価値を市場化できないかということを感じ始めていたということでした。

フローからストックへという流れのなかで、住宅ストックの流通促進のための新しい金融商品のアイデアとして、国交省の補助事業に採択されたのが「ミレニアル世代に向けた団地を買いやすくする金融商品」の提案でした。これまでの不動産評価の通念から脱却した、暮らしの豊かさにつながるような団地の良さを価値化できる評価を加えた、新しい不動産評価の軸を構築すること。「優良団地認定」のような、いい団地を認定するしくみ。若い人が団地を買いやすくするような残価設定や買取保証のようなしくみづくり。などを提案されています。

ここからが本日の話になりますが、先述の評価軸の発展形として、「Danchi-Score100」という団地の新しい評価軸。一定水準以上の評価の団地を認定する「三ツ星団地」。さらにこれからの団地を支える人たちという3つの柱でお話ししていただきました。
「Danchi-Score100」は、団地のもつ強みや課題を「見える化」し、管理組合や住民が健全な団地運営に必要な取組みを知るための評価ツールとなるものであり、一定水準以上の良好な団地を「三ツ星団地」として認定し、管理組合等においては、団地の将来像の検討等に役立てることができます。評価項目は、ハード・ソフト100項目から構成し、100点満点で評価します。団地の環境要件として、「敷地や屋外空間の環境」「団地運営・経営」「地域社会・コミュニティ」、住戸・住棟の基本要件として「専用部の居住環境」「住棟共用部の居住環境」などについて、「1基本性能やそのポテンシャル」、「2基本性能やその維持管理活動」、「3快適性・居住性を保つしくみ」、「4ゆとりや拡張性、将来性など」の4つの評価軸(観点)を定めています。

評価の結果は、わかりやすくビジュアル化したグラフなどで示し、優れている点や劣っている点、レベルはどの程度かといったことが容易に判別できることを目指しています。
団地評価システム「DANCHI-SCORE100_Ver2.0(2023)」をリリースし、客観的に評価するためのマニュアルも作成されています。今後、管理組合にピーアールして行くうえで、一緒に活動してもらえる協力団体を募集しているところだそうです。

管理組合に働きかけて、団地評価を行い、「三ツ星団地」となった団地も出てきているそうです。「三ツ星団地になろう!」というピーアール動画も用意していただいたのですが、通信環境の関係で残念ながら動画の閲覧はできませんでした。

次の話題は、「団地を支える人たち」です。
金丸さんの事業は、団地の住戸を取得し、リノベーションして売却するものですが、通常のリフォームと違い、リノベ費用は相当額になります。この費用の捻出に金融機関は金を出してくれない。そのため「Renovation Fund」をつくり社債を発行して個人投資家から出資してもらう仕組みを作っているそうです。

また、これからのマーケットを主導するのは、Z世代だとおっしゃっています。1990年代後半〜2012年頃生まれのZ世代のマーケティングのポイントは、

•スマホやSNSを常に利用するため、デジタルでアピールすることが重要。文字より音声やアニメなどを使ったほうが受け入れられやすい。

•その一方経済的に保守的な傾向も見られ、 コスパやタイパを重視するため、商品・サービスを利用するメリット、費用を支払うだけのメリットを明示することが大切と分析されています。

金丸さんたちのリノベ住戸の購入層は若い独身女子が多いそうです。また団地再生支援協会の女性メンバーば「団地女子会チーム」を結成して、精力的な活動をされているそうです。彼女たちの話題の中で、「団地再生」は「男子再生」だという言葉が出てきたそうで、まさに同感でした。団地女子会のロゴは”女””子”をくっつけて団地”好”会としているそうです。

最後に紹介していただいたのは、鶴川団地のセントラル商店街の最近の様子です。ここでは空き店舗に若いクリエーターの方たちが出店しており、個性的な古着・雑貨店、カフェ併設の骨とう品店、外装は一見貧弱ながら内装はおしゃれなホテルなどが生まれており、面白い商店街に変容しているようです。

これからの団地再生は、z世代の若い人たち、団地に興味を持って新しい暮らしを始めようとする若い独身女性、商店街を元気にする若いクリエータの人たちなどを巻き込んでいくことで、可能性が生まれてくるのかもしれません。

懇親会では団地女子会や男子再生でとても盛り上がりました。金丸さん、お忙しい中、また急な要請にもかかわらず、講演をお引き受けいただきありがとうございました。

2024.5.25[Sat]記載)


第171回(2024年3月21日)

■ テーマ: 『団地・マンションの温熱環境改修』〜補助金・助成金利用で外断熱改修を実現〜
■講師: 金子 勲(かねこ いさお)さん(株式会社A&Cサポート金子勲一級建築士事務所、日本外断熱協会正会員)

金子さんは、団地・マンションの省エネ改修の設計・管理・コンサルタントの仕事をしておられます。外断熱化を進める仕事に携わる以上、自らも外断熱住宅を体験する必要があると、たま・まちせんが手掛けた外断熱のコーポラティブマンションである「永山ハウス」住居兼用の事務所を構えておられます。

金子さんには2018年5月の第138回の木曜サロンにおいて、「住宅等の省エネ対策やリノベーションについて」というテーマで、ご自身が手掛けられたパッシブハウスや省エネリノベーションなどの実例を紹介していただいて以来、6年ぶりになります。

近年、国や東京都などでも住宅においても温暖化対策として、温熱環境を改善するため外断熱化を進めようとしており、そのための補助金制度や助成金制度が充実してきています。金子さんは中古マンションの外断熱化や省エネ改修を促進するため、これらの補助金・助成金を活用することに早くから着目され、管理組合に対する支援業務を多く手掛けられるようになりました。

まず省エネ改修とはどういうものか、いくつかのステップに分けて説明していただきました。
ステップ1は開口部の改修で、窓や玄関ドアなどのカバー工法による取替えです。共用部の改修が難しい場合には、内窓設置や断熱ガラス(スペーシア、ペアガラス等)への交換を行うこともあります。

ステップ2は屋根の断熱改修で、既存の断熱材にさらの断熱材を付加し塩ビシートで覆います。ステップ3が外壁の断熱化(外断熱)です。ステップ4は床下の断熱化(ウレタン吹付)。ステップ5はその他として、熱交換換気扇などの換気設備改修、太陽光発電・給湯、蓄電池やEVへの対応などもあります。

さらに、現状の住まいでできることとして、エアコンや給湯器、照明器具、家電などの省エネ化。また夏の日射の遮蔽や冬の日射の取り込み対策などもあります。

すでに皆さんご承知の方も多いと思いますが、外断熱工事のメリットとしては、ます第一にコンクリートの劣化を抑えることができ、建物の寿命が延びることがあげられます。二番目としては、建物のコンクリート躯体が外気温の影響を受けにくくなるので、冬は暖かく、夏は涼しい室内の温熱環境となります。その結果、電気代の節減効果、脳卒中やヒートショックの防止などの健康対策、夏には熱中症の防止にもつながります。

第三は、長期的にみて建物の維持管理費の抑制につながります。塗装などの修繕対象の減少や修繕工事の周期の延長などが期待できるほか、個人のレベルでは光熱費や医療費の抑制効果も期待できます。

四番目としては、省エネ改修に対して、内容に応じて国や東京都、多摩市などの様々な補助金制度があり、修繕工事の内容に合わせて、これらを組み合わせて活用することで、実際には工事費の4割程度まで補助金を獲得できた団地もあるそうです。

金子さんの現在のお仕事は、これらの多様で複雑な補助金制度を、各団地・マンションの大規模修繕工事の内容や規模、組合や住民のニーズなどを調整しながら、最大限管理組合のメリットとなるよう補助金を活用した修繕工事を支援することにあります。

一方で、デメリットもあります。管理組合の合意形成のためには、メッリトと同時にデメリットもしっかりと説明し、それを上回るメリットがあるということを理解していただくことが重要だと強調されています。

デメリットには、高価な工事費用、長期的は回収できるとしても光熱費だけで考えると30年はかかる。工事期間が長くなることもあげられます。また断熱材で表面を覆うため、外側から躯体を確認できなくなり、大地震時のクラックや漏水の原因確認などが外側からできないことになります。ほかには国内の実績不足や断熱材が不燃性でないこと、表面強度が弱いため、階段室などでは損傷の可能性もあることなどがあげられます。

金子さんが手掛けられた、補助金を活用した省エネ改修の施工事例をいくつか紹介していただきました。

@ビスタセーレ向陽台(1993年建設、築30年 7棟160戸、5〜6階)
大規模修繕、給排水管更新、外断熱 工期2020.5〜2021.1
補助金受給額:1憶2500万円(工事費の28%)
(参考記事 マンションタイムズ2020.11.1.、2020.12.1 建築知識2022.9)

Aエステート貝取-2(1983年建設、築40年 14棟293戸、3〜5階)
大規模修繕、給排水管更新、サッシ・玄関ドア改修、外断熱
工期2021.5〜2023.1
補助金支給額
・長期優良住宅化リフォーム推進事業:2億930万円
・多摩市優良建築物整備事業:1億4,650万円
合計:4億3,950万円(工事費の約30%)
(参考記事 朝日新聞2023.1.4 日経アーキテクチュア2022.7.28 日経TEWCH2022.7.28 建築仕上技術2022.9 マンションタイムズ2021.9.12 住宅新報2023.3)

B花見川住宅(1968年建設、築55年 40棟1530戸、5階)
大規模修繕、外断熱 工期2021.4〜2024.1
補助金受給額:8憶2200万円(工事費の27%、外断熱工事の85%)
(参考記事 日経TEWCH2022.1.31 日経アーキテクチュア2022.7.28 朝日新聞2023.1.4 )

C他に都心部の単棟型マンション、習志野市のマンションの事例

各事例の特徴や特に外断熱工事における工夫や様々なディテールの問題点、補助金獲得のための工程上の工夫など、詳細に説明していただきましたが、詳しくご紹介できず残念です。それぞれの事例が掲載された雑誌。新聞等の記事を記載しましたので、ぜひ参考にしてください。

最後に、金子さんの経験から”外断熱改修はなぜ普及しないか”という分析を話していただきました。

・日本の省エネに対する基準が低く、みな我慢しているのが現状
・工事費が高く、大規模修繕でも予算が不足すると初めに外断熱が除外される。
・住民の高齢化や外断熱に対する理解不足から合意形成が困難
・認知度を上げるための、行政、施工会社、設計事務所、管理組合等への広報が不足
・経験や実績が不足しており、ノウハウや定量的なデータが無い
・既存建物は内・外の2重断熱となり、施行の収まりの困難さ、合意形成や補助金等の獲得のための雑多な業務が多い
・国や自治体等の補助金の不足や外断熱に対する補助の薄さなど、外断熱促進のための制度上の不備
・新築施行会社、大規模修繕工事業者、設計事務所などは外断熱の専門性が低く、煩雑な業務を敬遠しがち

金子さんの悩みや仕事上の苦悩までも想定される多岐にわたる内容でした。自分自身の団地に照らしてみても納得してしまうことが多くありました。

質疑応答の中でも、実際に外断熱を実施したものの、想定した補助金が下りず、北面など一部分の外断熱しか実施できなかったという例や、乾式外断熱を実施したが、工事中の騒音がひどくとても我慢できるものではなかったという例など、外断熱工事に踏み切った団地においても、様々な問題があることがわかりました。

金子さんは補助金獲得実績がほぼ100%ということであり、外断熱及び実施にあたっての補助金・助成制度などの経験や知識、人的ネットワークが豊富で、これから実施を検討する団地・マンションにとってはとても心強い味方になると思います。団地間の補助金獲得競争のような状況も生まれてきており、国等の施策動向や補助金関連の情報もとても気になるところです。

金子さん、お忙しい中、ありがとうございました。

2024.3.31[Sun]記載)


第170回(2024年1月18日)

■テーマ: 『人が集う、都市農地』 〜“農”が持つ魅力と力とは
■講師: 舩木翔平(ふなき しょうへい)さん(八王子市議会議員、認定農業者)

舩木さんは、2010年に東京農業大学を卒業された後、2012年に八王子市で新規就農されました。当時、鈴木亨さんの牧場跡をかりて、YUGI MURA Farm"おっさん牧場"を立ち上げ、株式会社FIOを設立されたばかりのころでしたが、”大学をでたばかりの農家とは無縁の若者が、新規就農して都市農業に新しい風を起こそうとしている面白い人がいる”ということで、話を聞いてみようと2013年2月の第86回木曜サロンで話していただきました。それから10年が経過し、2013年4月の八王子市議選で市議にも当選し、舩木さんの活動はどのように進化しているのか、とても興味深く話を聞かせていただきました。

舩木さんのこれまでの活動は、”都市”で農業を営む意味、農と人との関わり、都市の中の農地の在り方・・・を問いかけ、答えを追い求める活動のように思えます。2013年〜2017年の株式会社FIOは、若い農業仲間3人で、農産物販売、農業体験、農家連携などを目的として、野菜・ハチミツの⽣産販売、農業体験イベント企画運営などの事業を展開されてきました。2018年には一般社団法人畑会の設立に参加し理事に就任されました。

畑会は「畑での出会い」を提供し、農業経営や農を基盤としたコミュニティづくりを目指して、農業体験と農作物を使った料理を⾷べるイベント、研修事業&シンポジウムなどの事業を展開しておられます。また、ユギムラ体験農園(ユギムラ牧場)、もぐもぐファーム体験農園(小比企町)、八王子モーモー体験農園(磯沼ミルクファーム)などの体験農園サポートや援農サポートも行っています。

今後は、農地の有効活⽤のため、体験農園の仕組みを基本とした農園づくり、オーナーである農家が主役として、農園に関わる⼈達と共に⾃主的で持続的な運営のサポートを目指しておられます。

都市農業を守るためには、農業生産だけでなく体験農業や貸農園などのビジネス的な視点を持った人材が欠かせず、人材育成も重要な課題とのことです。畑会にもいろいろと相談が増えており、今後はさらに人的ネットワークを広げ、たくさんの人の希望や夢を実現できるような企画を進めていきたいということです。ご自身の出身大学のつながりも貴重なネットワークとなっているようです。

また、農地の賃貸借に関する法的な備えは十分とは言えませんが、市民農園・体験農園を開設するうえで、「特定農地貸付法」「市民農園推進法」などの法的な枠組みもできてきています。練馬区では、農家が開設する体験農園を推進し支援するため、「農業体験農園」の制度がつくられており注目されます。さらに、農家が安心して体験農園を経営していけるような、信頼関係を構築するための中間管理機構のような役割が必要ではないかと指摘されています。都市部における農業体験ニーズは高く、今後も交流の場や新たなコミュニティ形成の場として大いに期待されるとのことです。

畑会の活発な取組みが注目され、2022年度からは多摩市の農業公園構想推進のサポートも始まっています。農業公園構想は多摩大学の東側の連光寺・若葉台里山保全地域の拡張区域内の農地を、市民が農作業の体験や、体験を通じた交流・ふれあいなどを行うことができる農業公園として整備しようというものです。

多摩市は東京都の補助金を活用し、エリア内の生産緑地を買い上げ、2027年(令9年)のオープンを目指しています。2023年度にはプレイベントとしてサツマイモやジャガイモの植え付けから収穫までの体験学習も行われ畑会もサポートを担っているとのことです。
会場からは、農業公園近くの天王の森公園・八坂神社の貴重な近代歴史的スポット(明治天皇の行幸やその行幸をめぐる地域社会の動向など)も視野に入れたエリアの活用の提案もあり、今後の多様な展開が期待されます。

舩木さん個人としても、遊休農地の活用や都市農地を守るための活動もされています。
2017年には八王子市小比企町の1,000uの遊休農地耕作放棄地を活用し、イチジクの栽培を始められ、「東京イチジク」のブランドで販売しています。懇親会では、イチジクの収穫時期と議会開催時期が重なることの悩みも話されていました。

さらに、2022年に八王子市大谷町(通称ひよどり山)にある1,500uの生産緑地(市街化区域)を購入されました。サツマイモ作りや一部をひまわり畑として活用、地域の子どもたちや保育園児の来園もあるようです。資金的にも今後の税負担なども考えると、相当思い切った決断だったのではないでしょうか。

ひよどり山エリアは、20軒ほどの農家もありますが、都有地も多く2000年の三宅島噴火の際には、避難してきた島民が農業を営む「三宅島げんき農場」としても利用され、その後「とうきょう元気農場」が開設されて生産物は都内区部の学校給食の食材供給に充てられているとのことです。八王子市としても都市農地の利活用が期待できるエリアとして取り組んでいるとのことです。

”農”は農業生産、農を通じたコミュニティづくりなど多様性を秘めていますが、中でも教育的な意義も重要だと言っておられます。農水省においても農業体験の提供や生産者からの学びなどを目的として「教育ファーム」の取組を推進しています。

自治体の取組み事例の紹介もあり、市議の一員として視察された新潟市の「アグリパーク」は市の教育委員会に農業担当が配置され、農業体験学習の年間のカリキュラムを作成し、子供たちの農業教育が行われているとのことです。ほかにも、横須賀市の「地域の魅力体験サイトシテコベ」、小金井市の「わくわく都民農園」(JR小金井駅徒歩5分!)を挙げていただきました。

注)「地域の魅力体験サイトシテコベ」(横須賀市)・・・横須賀市の市議で起業家の嘉山氏が運営する「株式会社シテコベ」は、地域の魅力に付加価値を高めるため、農業体験や漁業体験などを行っています。シテコベとは三浦半島の長井弁で「やってみよう(してこべぇ)」という意味で、自然環境豊かな三浦半島で「漁業・農業体験などを通して、地域資源や魅力に触れてもらいたい」という思いから事業をスタートしたそうです。ファミリーから小中学校の団体まで、農業・漁業・酪農・里山自然体験などの季節に応じた三浦半島の楽しみ方を企画・創造しています。

注)「わくわく都民農園」(小金井市)・・・東京都が、生産緑地の貸借制度を活用して令和4年に開設されました。都市農地の保全、高齢者の活躍、多世代交流などを併せて進める事業で、東京都、運営事業者である(一社)小金井市観光まちおこし協会、小金井市、生産緑地所有者の四者で協定を締結し、協働により実施しています。農園の運営は「シニア農園」「学校農園〈共菜園〉」「福祉公園(農福連携)」「地域農園(地域・多世代交流)」「子ども農園(農体験による学び)」の目的別に5種類の農園を提供しています。

舩木さん、市議との2足わらじでお忙しい中、ありがとうございました。多摩市の農業公園の今後の展開や、舩木さんの様々な試みもこれから楽しみにしています。

(2024.1.30[Tue]記載)


第169回(2023年11月30日)

■ テーマ: 「植物から見た多摩ニュータウン」
■講師: 仙仁 径(せんに けい)さん(公益財団法人多摩市文化振興財団学芸員)

仙仁さんは、東京農業大学造園学科を卒業後は都立大学の大学院理学研究科で生物学を専攻され、博士課程では高山植物のDNAを通じて辿ってきた歴史の研究などにも携わってこられました。現在はパルテノン多摩(公益財団法人多摩市文化振興財団)の学芸員として、生物からさらに幅広く自然全般を担当されています。

NHKの朝ドラ「らんまん」では、多摩の植物も登場するので、植物考証の一部も担当されていました。本日は、“ニュータウン開発前後の植物と、その今と未来”という内容でお話ししていただきました。

開発前の多摩丘陵は里山として、雑木林、田、畑、カヤ場などに利用され、農作業を通じて自然に手を加え、維持されてきました。人々の暮らしが生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みによって支えられていました。多摩丘陵の雑木林はコナラ、クヌギなどの落葉広葉樹が主体で、その根元にはカタクリなどスプリングエフェメラル(春植物)という、春に芽を出し花が咲き、翌春まで休眠するという性質を持つ植物がみられます。

多摩丘陵固有種としてはタマノカンアオイ(牧野富太郎博士が発見し発表)やタマノホシザクラ(2004年に新種として発表)があります。前者は多摩丘陵を超えてやや広く分布していますが、後者は多摩、八王子、町田の限られた地域にのみ生息しています。

雑木林は十数年のサイクルで伐採とひこばえの成長が繰り返され、また下草刈り、落ち葉かきなど手が入ることで雑木林の生物多様性が維持されてきました。近年、燃料革命などにより薪炭需要がなくなることで雑木林の役割がなくなり、手が入らなくなって生物多様性も減少しました。カヤ場は役割とともに消滅しました。カヤ場はススキ草原を好む植物の宝庫で、以前は黄色に染まるほどのオミナエシが生えていました。マツムシソウやヤマトラノオも多摩丘陵では見られなくなってしまいました。

貴重種が生息する湿地や水辺もありました。多摩市の永山南公園あたりは岩ノ入池という湿地があり、モウセンゴケやトキソウが生息していました。八王子の長池には絶滅危惧種に指定されているサワギキョウやミズオトギリが生息しています。多摩地域の植物研究家である畔上能力(あぜがみちから)氏はこれらの保全の必要性を唱えられていました。岩ノ入池は残念ながら開発されてしまいましたが、長池は現在も長池公園として残されています。

開発に伴い、造成地の緑化が行われましたが、多摩丘陵は上総層群という海底で形成された砂や礫の多い硬い地層が造成で露出し、当初はクロマツやハリエンジュなどの乾燥や貧栄養に強い樹種が植栽されていました。

後になると既存樹木や表土の保存利用も行われるようになり、緑化の改善だけでなく、生物多様性の保全、他地域からの混入による遺伝かく乱の防止、土中に埋もれていた在来種の復活などの効果もありました。

大規模開発に伴う行財需要の高まりから、多摩市は行財政要綱を定め、開発主体の住宅都市整備公団(現、UR都市機構)と協定を結び、住区の30%はオープンスペース確保などの取り決めを行いました。また昭和40年代後半の環境問題への意識の高まりなどの背景もあり、開発に伴う緑地の保全や緑の環境形成が進められることになりました。貝取山緑地の保全や鶴牧・落合地区の基幹空間における連続した公園配置によるオープンスペースの確保、上之根大通りのモミジバフウなどの美しい街路樹の整備や街路樹の根元の緑化などがあげられます。また、ニュータウンの公園には、他ではあまり見られないような、シイモチ(東中野公園)、イスノキ(貝取北公園)などの樹種も植えられています。

一方、大造成に伴い外来種が多いのも特徴となっています。セイタカアワダチソウ(北米原産)、ブタナ(欧州)などがあります。タマノヤガミスゲ(北米)は、地域の愛好家に発見された非常に珍しいものですが、すでに消滅したようです。最近ではナガミヒナゲシ(地中海)が増えています。外来種の帰化率は多摩市では21.4%と他地域に比べ高いのが特徴です。(相模原市17.5%、秋田県14.4%)

多摩ニュータウンは豊かな緑の多い環境が形成されています。豊ヶ丘団地の住民の観察会のサポートも行っていますが、豊ヶ丘団地の緑地では96科、277種の植物が確認されています。一方で、多すぎる樹木や育ちすぎた樹木は、維持管理の上で問題も生じています。多摩市は街路樹の単位人口当たり本数が他自治体と比べて突出しています。また幹回りの太くなった樹木も多く、高木の剪定費用は大きな負担となっています。最近の街路樹はハナミズキのような大きくならないものや、ケヤキの品種“武蔵野”のような横張の小さい樹種が選択される傾向があります。

外来種が社会問題になるケースもあります。ハリエンジュという樹木は他の植物の生長を抑止する物質を分泌し、在来種を駆逐してしまいます。永山ハイツ斜面では、緑化で植えられたハリエンジュをすべて伐採しています。ハリエンジュは「日本の侵略的外来種ワースト100」「要注意外来生物」にも指定されているほどです。

また、松の老木の増加によりマツノザイセンチュウという昆虫がもたらす松枯れも数年前からみられます。カシナガキクイムシによるナラ枯れも多摩市でも3年ほど前から目立つようになっています。雑木林で炭焼きが行われなくなったことで老木が増えたのが大きな要因です。

人の手が入らなくなったことで雑木林の植生遷移もみられ、常緑樹が増加したり、アズマネザサが生い茂ったりといった生態系や植生の変化が顕著になっています。かつては管理することが収益の増加につながったのが、今では管理にコストがかかるようになってしまったことが要因と言えます。

一方で、在来種が戻ってくる事例もみられます。ニュータウン通りの中央分離帯にスミレの群落が復活していたり、クチナシグサなどの絶滅危惧種に指定されている植物もニュータウンの中で見かけます。開発から年月が経過し、周辺に残っていた在来種がニュータウン内に戻ってきているのではないかと思われます。

2020年に長池公園の長池の水を抜くカイボリを行ったときに、土の中に眠っている埋埋土種子から、東京都から絶滅したと思われていたジュンサイやユキノシタが復活したこともありました。永山南公園の地下にもかつての岩ノ入池に生えていた絶滅種の種子が眠っているかも知れません。ボーリングでこれらを復活させることが夢です。

エビネ、オキナグサ、タマノカンアオイなども、民家の庭で生き延びている例もあります。開発前から多摩市に住んでいる人の家の庭を軒並み調査できたら、思わぬ植物も発見できるかも知れません。

植物や樹木は適切な管理を行うことで、多様性が保たれます。しかしながらコストの問題があります。また、ニュータウンでも植生は徐々に変化しており、温暖化の影響も考えられるなかで、変化し続ける植物を記録することが使命だと仙仁さんは語っておられました。

普段、見過ごしがちな草花や樹木のとても興味ある話を聞かせていただき、これからニュータウンを歩く時の目の置きどころも変わってくると思います。

(2023.11.30[Thu]記載)


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