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第179回(2025年7月17日)

■ テーマ:「食と農と環境をつなぐ教育から地域連携へ ー恵泉女学園大学での30年を振り返ってー」
■講 師:澤登早苗(さわのぼり さなえ)さん
■講師略歴:恵泉女学園大学名誉教授、自由学園非常勤講師、元有機農業学会会長、
Life Lab 多摩代表, フルーツグロアー共同代表

澤登先生には2016年5月の第13回木曜サロンでもお話していただき、今回2回目の登壇です。今回は、恵泉に着任された1994年から約30年をふりかえり、5期に分けてお話しいただきました。

澤登先生は大学院までは一般的な農業を学ばれてきたそうですが、1993年に国際有機農業運動連盟第1回アジア会議にボランティアとして参加し、「緑の革命」*1がもたらしたアジアの農村における貧困化等に衝撃を受けたと同時に日本の農村も同じ問題を抱えていて、これからの解決の道をアジアの人と一緒に何かできると思ったことが有機農業運動に積極的に取り組むきっかけとなりました。また、当時のボランティア活動での出会いが、恵泉女学園大学(以下、恵泉)に勤めることに繋がったとのことです。

●第1期(1994年〜1998年)畑を有機栽培農場へ転換(非常勤講師)
当時、有機農業は異端児扱いの時代でしたが、恵泉の平和学研究者の提案で、有機栽培取組みへの道が開けました。恵泉には農学部がなかったことも功を奏したようです。有機物(藁、畳、草など)を入れての土壌改良、水を加えて発酵を促進させた鶏糞(曰く、ドロドロ鶏糞)の使用などを繰り返し、学生たちとともに畑の有機栽培への転換が実現しました。

●第2期(1999年〜2005年):人を育てる有機農業、生活園芸プログラムの確立(専任教授)
人間環境学科(2001年開設)に開設当初から関わり、人文科学系の大学で有機農業のもつ多面的機能を活かす「有機農業で人間形成を行う」という新たな視点を持ち込みました。同じく2001年には教育機関としては全国初の有機JAS認証を取得し、生活園芸プログラムの確立に取り組みました。「生活園芸I」では学部学科を問わず全ての学生がキャンパスに隣接した教育農場で有機園芸を体験します。また、子育て支援施設「あい・ぽーと」(南青山・2003年開設)での親子有機野菜教室などの実践、海外でのフィールドスタディで現地の有機農業の実態見聞や学生参加のプログラムも実施しました。

●第3期(2006〜2010年):国際連携と「特色ある大学教育支援プロジェクト(特色GPプロジェクト)」
第3期はJICAのプロジェクトなどにより様々な国との国際連携、交流の時期で、2009年には「アグロエコロジー」*2の提唱者を迎えて国際シンポジウム&ワークショップ開催、オーガニックショップ(恵泉内・2010年開設)では国内外の農産物販売などを実施しました。また、2006年度にはフィールドスタディを中心とした教育プログラムが、2007年には教養教育としての生活園芸が、それぞれ文科省の「特色GPプロジェクト」に選定され、体験学習プログラム、生活園芸プログラムのさらなる充実に励んできました。
そして、2006年5月に木曜サロンでの登壇が地域と様々なつながりができるきっかけとなり、地域の方々との活動、公民館講座など地域での活動に積極的に取り組まれました。

●第4期(2011〜2019):福島原発事故と有機農業、生活園芸から社会園芸へ
2011年の東日本大震災と福島原発事故は、「人と自然」「人と人」の関係、有機農業が有する多面的な機能の活用について改めて見直す時期となりました。緊急セミナー「農業と原発は共存できない〜私たちは福島と共に生きていく」開催(2011.5)、福島キッズアンドリフレッシュキャンプの実施。オーガニックカフェ(2012年常設化)では福島の有機農産物の販売などを実施してきましたが、会場となっていた南野キャンパスの売却とその後のコロナ禍で活動は中止となってしまいました。2013年設置の社会園芸学科は、心理と園芸の学びを通して「人と人」の関係を豊かにする工夫を考えることを目的とし、有機農業の多面的機能を活用して社会・地域の問題解決を地域と連携して取り組んでいく学科です。(多摩市の花壇アダプト、レイズドベッドを利用した園芸療法、大学との三者連携で運営してきたグリーンライブセンタ―等々、様々な場面で学生たちが地域の皆さんにお世話になりました。)

●第5期(2020〜2023年)コロナ禍を経て、現在まで
コロナ禍では授業やプロジェクトが大きな影響を受けました。しかし、2021年にNPO「LifeLab多摩」を設立し、子育て支援施設「あい・ぽーと」で始めた「キッズ交流ガーデン」の類似プログラムの継承や教職員・学生有志で運営する恵泉CSA*3では“食べる人と作る人を直接つなぐ”を目指した活動の一つとして八角堂(豊ヶ丘)でも野菜等の販売・地域との交流を行っています。また、「庭から育む食と地域〜オーガニック・エディブル・コミュニティガーデン多摩の実践」として、2021年春から地域団体と一緒に豊ヶ丘商店街の一角にある広場にコミュニティガーデンを設置し、高齢者の外出機会、住民同士がつながる機会を作ることを目的として、月1回園芸を楽しんでいます。(ソーラーパネル、雨水貯水タンク、レイズドベッド、段ボールコンポストなども設置)
恵泉女学園大学は終わりますが、2023年には「未来につながる持続可能な農業推進コンクール」(農水省)において長年の有機農業を軸とした取り組みに対して賞をいただくことができました。

多摩ニュータウンには公園はたくさんありますが、公共施設で食料の生産はできません。一方農地はどんどん減少しています。農地が持っている多面的機能(農産物の生産の場、災害時の避難場所、交流の場など)に目を向け、市民側からもアプローチしていくことが大事だと思います。持続可能な社会を考えたとき、農地をなるべく残しながら、農地管理の在り方、農家の方との関わり方も考えていくことが必要です。若い人の中には農業後継者として頑張っている人もいますから、そういう人たちとの交流も深めていけたらということも考えています。

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澤登先生、恵泉30年の歴史を振り返りつつ、先生のこれまでのたくさんの取組や有機農業への考え、地域とのかかわりなど多岐にわたる、興味深いお話をありがとうございました。
充実したお話の内容をつたないまとめで、十分には伝えきれないことをご容赦ください。また、過不足や間違いがありましたらご指摘ください。
恵泉女学園大学は、2026年春で閉校となりますが、澤登先生と学生さんたちが多摩に残された有機農業や生活園芸、社会園芸の足跡はこれからも引き継がれていくものと信じています。澤登先生にも、ご自身のNPOを通じた活動で、これからも多摩ニュータウンとのご縁が続くことを祈念しております。ありがとうございました。

*1緑の革命:1960年代から1970年代にかけて、開発途上国を中心に、穀物の生産量を飛躍的に増加させることを目的として行われた農業技術の革新。品種改良、化学肥料、灌漑、農薬、農業機械などの導入によって、食料不足の解消を目指した。(AI)
*2アグロエコロジー:農業(agro)と生態学(ecology)を組み合わせた造語。従来の慣行農業における環境負荷を減らし、持続可能な農業だけでなく、農場から食卓、持続可能なフードシステムを模索する概念。生態学を応用し、自然の力を利用して、農薬や化学肥料に頼らない農業を実践すること、消費者と生産者の関係、食べ方を見直し、出来るだけ短い距離で流通することを目指す。(AI)
*3恵泉CSA:恵泉コミュニティ・サポート・アグリカルチャー

2025.8.17[Sun]記載)


第178回(2025年5月22日)

■テーマ:「団地に住みたい人を、増やしたい!」
■講 師:村上亜希枝(むらかみ あきえ)さん(団地再生支援協会 団地女子会)

●自己紹介
団地との出会いは多摩ニュータウンの不動産会社に就職したことから始まります。そこでは主にURや公社の賃貸住宅を扱っていました。現在は、団地再生支援協会に属する「だんちぐみ」で若い世代向けにリノベーションした住戸の販売なども手掛けています。
宅地建物取引士として、団地に特化した賃貸・売買をやっていますが、そうこうしているうちに、各所からの依頼が増えてきていろんなことをやるようになりました。
これまでに400組以上の方に団地を案内してきました。団地というものを初めて知ったという人も多く、お部屋の内覧の対応だけでなく、団地の特長をお話してくるなかで、すっかり私が団地好きになってしまいました。
自分で「団地rooms」というサイトを立ち上げ、リノベーションした部屋を紹介しています。また、団地を買うためのノウハウや団地の魅力を紹介するような「団地ジャーナル」というウェブマガジンも立ち上げました。

●団地女子会のこと
団体再生支援協会の会員企業の中から、女性だけを集めて女子会を作ったら面白いんじゃないかという話がでてきて、“自分のやりたいことを中心にやります。
具体的な活動としては、女子会のメンバーが訪れたい団地を選定し、街づくりにかかわるゲスト講師と一緒に訪問する団地見学会を行ったり、先日は、町田の鶴川団地の商店街のイベントに出店し、子どもたちに団地ぬり絵や団地模型を作ってもらったり、このような活動を通じ面白いなと感じたことを、「団地偏愛通信」という記事にまとめています。団地偏愛通信は、団地再生支援協会のホームページや、FacebookやInstagramに投稿しています。

●ダンチジャーナルのこと
ウェブマガジンのダンチジャーナルは「団地に住みたい人を増やしたい!」というテーマで、団地を住まいの選択肢に考えていなかったような人たちにも団地を選んでもらえることを意図して書いています。ゆくゆくはいろんな人が寄稿してくれて、団地にまつわるプラットフォームになればいいなというのが希望です。
管理組合と自治会は何が違うのか、団地に住むと人付き合いが大変じゃないの、築50年過ぎてても大丈夫なのか、耐震はどうなのかなど、これまで400組ぐらいの人に団地を紹介してきて、質問されたことなどを書いて、少しでも団地に対するハードルが下がってくれたらいいなと思っています。団地の管理組合ではこんな人が活動してますとか、団地の商店街をこんなふうに盛り上げている人がいますよとか、そういう記事をどんどん載せていきたいと思っています。
また、管理組合の人たちの意見交換ができる場になったらいいなとも思っています。昨年、鶴川六丁目団地の団地の集会所にソーラーパネルがついたんですが、そういうようなたくさんの事例を紹介し、他の管理組合の参考にしてもらい、交流ができるような、プラットフォームになればいいなと思っています。
これまでのリノベ団地の購入者は、30代の単身女性が多く、都内から引っ越してくる方も多くいます。臨月なのに団地の5階に越してきて、毎日階段上り下りしていて安産だったという方もいます。団地の5階というとネガティブな話が多いのですが、5階まで上がるとマイナス何キロカロリーとか、面白いアイディアも盛り込みながら団地ジャーナルを続けていきたいと思っています。
実際に住んだ方や、リノベーションの部屋を購入した方の生の声を紹介することで、団地のハードルが下がればいいなと思っています。

●管理組合のウェブページもつくってます
団地のことをいろいろやっていたら、いろんなことを頼まれるようになって、横浜市の竹山団地のホームページを作らせていただきました。竹山団地は約2000戸の4階建ての階段室型から高層棟まで、戸建も含めた団地で、25の管理組合に分かれているマンモス団地ですが、そのうちの一つの管理組合が外断熱や宅配ボックスの設置など、先進的な取り組みをやっていて、そこの管理組合のウェブページを国交省の補助事業でつくりました。
管理組合のホームページの難しいところは、毎年役員が入れ替わってしまったり、運営に費用がかかることなどがあるので、誰でも簡単に記事の更新が可能で、ランニングコストがかからないサイトを利用しています。現在フォーマットを作っており、他の管理組合や自治会でも活用できるようにすることも考えています。

●団地自治会の広報紙のこと
自分の住んでいる団地の自治会の広報委員に立候補して4年くらいやっています。写真をふんだんに使って、読みやすいように工夫しています。広報紙は女性が作った方がいいと個人的に思っています。経験上、男性の文章は堅くて、入会したばかりの人にはわかりにくいことが多いからです。
私の住んでいる団地も駅から遠く、1200戸の戸建て団地で少子高齢化が進んでいます。住民の間には悲観ムードも漂っていて、それを何とか払しょくしたいと思い、「若者が団地に戻ってきた」というシリーズを始めました。越してきてよかったこと、こうなったらいいなというようなことを紹介しています。
広報紙は往々にしてゴミの捨て方とか、説教がましいことが多く、誰も読まなくなってしまいがちです。そこで、若い人が戻ってきているというような明るい話題を盛り込み、この団地も捨てたもんじゃないと思ってもらえるようにしています。

●団地女子会の活動
https://www.danchisaisei.org/?page=category&category=jyoshikai
●団地ルームズ運営
https://www.danchirooms.jp/
●ダンチジャーナル運営
https://www.danchijournal.net/

村上さん、大変面白く元気の出るお話をありがとうございました。
意見交換や懇親会では、エレベータのない5階をどうやって若い人達にアピールできるかという、5階談義に花がさきました。
女性のしなやかなパワーは団地再生やコミュニティの活性化に大きな力を発揮すると思います。ぜひ、多摩ニュータウンのいろんな団地に女子会が生まれ、団地再生(男子再生)のきっかっけができれば面白いなと思います。ぜひ村上さんのパワーやノウハウをお貸しください。

2025.5.31[Sat]記載)


第177回(2025年3月20日)

■テーマ:「 多摩ニュータウンで育った人の記憶の底に残る『原風景』」
■講師:大内 俊二(おおうち しゅんじ)さん(パルテノン多摩市民学芸員・元中央大学教授)

●はじめに
「原風景」という言葉はいろいろな意味で使われますが、ここでは「大人になって子供のころ(小学校低学年くらい)を思い出す時心に浮かぶ風景を核とした心象風景」とし、個人のアイデンティティの基礎となるものと考えておきます。

私は、個人それぞれの記憶の底に残っている「風景」がこの「原風景」の核になると考え、1987〜2019年に日本全国から集まる大学生諸君に小学校低学年ころの記憶にある「風景」とそこで何をしていたかをアンケートで聞いてきました。その結果は学内誌に一部書いたりしましたが、専門外でもあって未だきちんとまとめることはできていません。それでも、それなりに興味深い傾向を見て取ることはできたと思っています。

最近は多摩ニュータウンで育った人も増えましたし、私もここに住んで40年になろうとしています。そろそろ計画的・人工的に開発された多摩ニュータウン育ちの人々の「原風景」に何か特有な点があるのだろうかといったことを考えることもできそうだと思いました。そこで、大学生を対象にした調査と同様のことを多摩ニュータウンでやってみようと思い立ったわけです。ただし、同年代の学生が多数かたまって存在する大学の場合と違って調査も人づてに少しずつ行わざるを得ず、まだ年齢もバラバラな68名から回答を得ているのみです。というわけで正確な比較は難しいのですが、これまでの結果から推測できそうなことを少しお話してみたいと思います。

●中央大学の学生のアンケートにみる原風景
中央大学理工学部の学生を対象にアンケート調査(1987〜2019年の32年間で有効回答者計5120人)を行いました。アンケートは、ごく簡単に『小学校の低学年(7〜10歳)くらいの時、どこにいたか、そのころの記憶で頭に浮かぶ風景や、そこで何をしていたか』を聞いています。

得られた回答に記された「風景」と「行動」の内容について、それぞれいくつかの項目に分けて回答者数を数え、調査年ごとの回答者全数に占める割合で表しました。これらの項目のうちほぼ10%以上を占めるものについて、社会の変化などとの対応を考察できるよう、子ども当時の年代(1976〜2008年)に置き換えて時系列でグラフ化しました。

記憶にある風景では、1980年代の初め頃までは緑や水辺に関する風景が1、2位で40〜50%を占めていましたがその後急減し、代わって公園・校庭の風景が急増して50%以上となりその後も目立った減少なく他を圧していきます。はじめは比較的多かった(30%前後)原っぱ・空き地、田・畑も、緑や水辺ほどではありませんが同時期に減少しています。ただし、緑、水辺、原っぱ・空き地、田・畑がなくなることはなく、2000年代に入っても10−20%前後は見られます。

行動について見ると、虫取り、魚・ザリガニ取りは、1980年まで40%くらいあったのがその後緑や水辺の記憶と同様に急減しています。校庭・公園に連動していると考えられる野球・サッカーなどの球技は始めからかなり多いのですが、1980年代の56%をピークに徐々に減少する傾向を見せます。記述内容から見ると、この減少傾向は球技と言っても遊びの要素が強かったころから本格的なスポーツに変化していったことを反映しているようです。自転車も減少傾向にありますが、鬼ごっこなどの子供の遊びは根強く残り2000年代には増加の傾向も見せます。校庭・公園などで球技が禁止されることが多くなった影響でしょうか。ゲームはファミコンの登場とともに急増しましたが、その後はあまり増加するわけでもなく2000年代に至っても10%前後で推移しています。回答者に聞きますと、「確かにゲームに費やした時間が長いはずだが記憶にはそれほど残っていない」とのことでした。

●社会の動きを重ねてみると
「もはや戦後ではない」といわれた1955年以降、インフラ整備が急速に進んだ高度成長時代を経て、1770年代になると人々は個人の生活の豊かさを求めるようになりました。自家用車の普及、海外旅行、整備された郊外住宅地の増加など“アメリカ風”の生活様式が1970年代以降急激に広まりました。緑、水辺の記憶が急減するのもこのあたりからですし、公園の記憶の増加も1970年代から急速に進んだ公園緑地の整備に関係していると思われます。交通事故の増加が社会問題となるころには、子どものころの記憶から自転車乗りが少なくなってきています。また、1980年代にファミコンが発売されると、記憶の中にもTVゲームが現れてきます。

1970年代からは多摩ニュータウンのような都市郊外の新興住宅地開発が進みます。しかし一方で、一時期新興住宅地で凄惨な事件が多発したことから郊外住宅地へ強い批判が向けられるようになり、風景がアノニマス(どこでも同じ)となってしまった郊外住宅地でこそこのような犯罪が起こるのだといった論調が注目を集めました。当然、生活様式の変化にともなうコミュニティの変化は、子どもたちの行動にも影響を与えると考えられます。街の整備が進んで自由に遊べる自然スペースやオープンスペースが少なくなっただけでなく、少子化で遊び友達が減少したり塾や習い事で時間を取られたりして子どもたち外遊びが減少し、記憶の底に残る「原風景」にその変化が影響しているように思います。

●多摩ニュータウンにおける調査
多摩ニュータウンの調査は、パルテノン多摩ミュージアム市民学芸員の方などの協力で実施し、68名の方から回答を得ています。そのうち5名はニュータウン開発以前に子供時代を過ごした方で、ニュータウン育ちの方は実質63名ということになります。数が少なく年代のばらつきもあり、中央大学の学生を対象とした全国的な調査とは正確な比較はできませんが、構成比によりかなり強引に比較してみました。

風景に関しては、多摩ニュータウンの調査では当然ながら全国の調査と比べて水辺や田・畑は少なく、道路や建物が多くなっています。しかし、意外にも緑に関する風景が多く、空き地・原っぱも多いことがわかります。公園や緑地が多く造られたこと、ニュータウンが少しずつ時間をかけて開発されてきたことが関係ありそうです。校庭・公園の割合にはあまり違いが見られません。

行動に関しては、校庭・公園で球技が制限されていることもあるのか、球技が少なく、鬼ごっこなどが多くなっています。自然の水辺がほとんどないので魚・ザリガニ取りは当然少なくなっていますが、意外と虫取りが多いことは緑地が多く造られただけでなく宅地造成中にそこここに林が残っていたことも関係していそうです。また、遊具や自転車などが多くなっているのは公園や遊歩道が整備されたからでしょう。

今回得られた回答からは、ニュータウンの特有の特徴が垣間見えるものの、子供を取り巻く環境としては意外と健全な印象を受けました。団地では近所に同世代の子供がまとまっていたでしょうし、緑地・公園・遊歩道が多く造られたこと、開発がゆっくり進んだために空地や雑木林などの空間が残っていたこと、開発事業体や開発時期の違いによって街区の様子が異なっていたりしたことなど完璧な計画都市とは言えないようなところも子供たちにはよかったのかもしれません。

5名の回答しかないのですが、ニュータウン開発以前の多摩市で子供時代を過ごした人の回答では、開発以降に比べて、当然ですが風景では水辺、田・畑、空き地・原っぱなどの割合が、行動では魚・ザリガニ取りの割合が大きいことが特徴的です。

(2025.3.31[Mon]記載)


第176回(2025年1月16日)

■テーマ:多摩ニュータウンを「ゆるめる」
■講師: 照井啓太(てるい けいた)さん(団地愛好家、地方公務員)

照井さんは無類の団地愛好家で、団地ファンサイト「公団ウォーカー」を20年以上運営しておられます。ご自身も神代団地に15年居住され、団地生活を満喫されておられます。高校2年生のころに団地に興味を持ち、写真を撮りまくっていたということで、これまでに『僕たちの大好きな団地—あのころ、団地はピカピカに新しかった!
』『団地ノ記憶』『団地の子どもたち 今蘇る、昭和30・40年代の記憶』(洋泉社)などの共著書があります。最近では、2018年に『日本
懐かし団地大全』(辰巳出版)が出版されています。
本日の話は、これまで数多くの団地を見てこられた、まだ30代の若い世代の照井さんに、多摩ニュータウンは外部の目からどう映っているのか、より、若い世代の人たちにニュータウンを理解し、住みたいと思ってもらうためには何が足りないのか、率直なご意見を伺いたいと思います。

●完成度が高く、非常にうまくつくりこまれているニュータウンだが・・・
まち全体に張り巡らされた歩行者専用道路、都内でも群を抜く公園の整備水準など、子供たちが自由に遊ぶことのできる街は他には見られません。居住地と商業地がうまくすみ分けられ、住区のまんなかに買い物の中心としての近隣センターが設けられていて、また住宅ストックは素晴らしいものがあります。
このような非常に完成度の高い街ですが、住民があたりまえと思っていることが、他の街にはない素晴らしい街だということを、もっと誇ってもいいと思います。多摩ニュータウンは、何かと外からは叩かれたり、批判されたりしますが、ニュータウン住民は謙虚すぎて、弱気になっているように思えます。
リクルートが毎年実施している「住みたい街ランキング」では、多摩ニュータウンは100位圏外だが、「愛されている街ランキング」では多摩市は都内で13位に位置しています。前者は20〜49歳がターゲットにしているが後者は自治体居住者を対象としています。
これが何を意味するのか、考えてみる必要があるのではないでしょうか。

●完成度が高すぎる堅すぎる多摩ニュータウンをゆるめる
完成度が高いとは、いいかえれば堅すぎるということでもあります。街中に張り巡らされた素晴らしい歩行者専用道路ですが、しっかりと作られた結果、道路法により管理されて、利用するにも道路占用許可が必要であり、厳しい条件のもとで様々な成約があります。
・滝山団地では歩行者専用道路の道路法による管理を中心の3m程度として、両側を団地敷地として利用できるようにしています。その空間でキッチンカーが出店したり展示会などが行われています。

・狛江市では*「ほこみち」制度※1*を活用した、まちなかビアガーデンを実施しています。
・川崎市のUR虹ヶ丘団地では、パナソニック、東急、URにより、自動配送ロボットや空中配送ロボットなどの実証実験「ソラカラ便」が実施されました。当初URの敷地内での実証実験だったものが、川崎市の協力を得て、遊歩道を横断して実施することができたそうです。
公園も多摩ニュータウンの主要な公園は都市公園法により管理されています。現在、多摩中央公園ではパークPFIにより民間を活用した公園の活用が進めれていますが、これがうまくいってニュータウンの公園にもっと広がっていってほしいものです。
・調布市の神代団地ではURの管理広場でクリスマスマーケットなどのイベントを行っています。
・世田谷の羽根木プレーパークは、子供たちが焚火をしたり木登りをしたり自由に遊べる公園ですが、40年の住民活動の中で生まれたものです。
鶴牧東公園の噴水のある広場(ジャブジャブ池)は好きな空間で、子供を連れて何度か遊びに来ていますが、近くに自販機もありません。このような場所にキッチンカーや自販機でもあれば、もっと楽しい場所にすることができます。
都市公園も管理者次第で楽しい空間にできます。管理者を動かすのは住民の思いです。住民の思いで、反対する人たちの心もゆるめられると思います。

●街の中心の「近隣センター」だが、名前からして堅すぎる
近隣センターも計算され計画されて作られており、時代の変化に柔軟に対応できないところがあります。昔のように魚屋、八百屋、肉屋などの立地は大規模店には太刀打ちできず、望めません。これからの商店街は個性的なお店が再生を促していくと思います。
・花見川団地では、無印良品とのタイアップで商店街を含めた一帯のリノベーションを行い、通りにベンチや椅子をおいたりして、なんとなく行きたくなるような人が集まる楽しい空間にしています。
・町田山崎団地ではぐりーんハウスという駄菓子屋を建築家の方が引き継ぎ、事務所を兼ねた駄菓子屋としたところ、子供たちも集まるにぎやかな場所になっています。その後クッキー、ラーメン、パン屋、アートのお店、ノンアルコールカクテルのおしゃれなお店など様々な業種・業態のお店が出店するようになっています。
・花見川団地でも、商店街の1区画を「えがおの駄菓子屋」という店を学生が運営したりしていて、子供たちが集まっています。
商店街に駄菓子屋さんがあると子供たちが集まり、やがて大人も集まってきてにぎやかな空間になります。商店街でバーベキューをやってしまうような「ゆるさ」もあっていいと思います。お酒をおしゃれに飲めるような場所やお店もあるといいと思います。

●多摩ニュータウンには土地が十分にあるのでなんでもできそう・・
・コンフォール茅ケ崎浜見平では、建替えに合わせて市の公園と民間施設をつなげ、民間施設の敷地の一部を公園と一体的な中間領域として整備しました。中間領域には遊具やファニチュアも置かれ、自由につかえる空間となっています。
永山団地商店街と隣接する永山南公園も似たような立地になっており、このような使い方ができる可能性があります。

・*南町田グランベリーパーク※2*
は、ショッピング施設と鶴間公園がシームレスにつながっていて、商業施設でテイクアウトして鶴間公園で食事することもでき、公園には隣接してスヌーピーミュージアムがあったり、おしゃれな施設も設けられています。
このような空間の使い方は土地がなければできませんが、幸い多摩ニュータウンには十分な広さの土地があります。これを活用しない手はありません。

●どうやったらニュータウンをゆるめて楽しいまちに出来るか考えてみよう!
照井さんから、様々なアイデアの提案がありました。
・サウナとか銭湯があったらいいな!
・遊歩道100mごとに自販機が欲しい!
・団地の中にキッチンガーデン!
・ペデストリアンデッキでビアガーデン!
・屋台がいっぱいあると楽しそう!
・遊歩道をスケボーコースに
・公園でキャンプしたい!
・近隣センターにスナックがあったら!

多摩市でも公園の使い方や、歩行者専用道路の利用などを市民と一緒に考え、実験するプロジェクトも動いています。近隣センターでは、若い世代の人たちがこれまでとは一味違う店舗の活用を始めています。
市民が自由な発想で、怖がらずに始めてみることが重要だと思いました。それとも、若い人たちはすでに始めているのかもしれません。
参加された方から、「私的に自由にまちを使う」ためのアイデアやノウハウが詰まった本の紹介もありました。
⇒「PUBLIC HACK」(笹尾和宏著 学芸出版)

照井さん、お忙しいなか多摩ニュータウンに来ていただき、貴重なお話をありがとうございました。多岐にわたる内容で事例もたくさん紹介していただきましたが、つたないまとめで、十分に内容をお伝えできないことをご容赦ください。

*※1*「歩行者利便増進道路」(通称:ほこみち)
「道路空間を街の活性化に活用したい」「歩道にカフェやベンチを置いてゆっくり滞在できる空間にしたい」などのニーズに対し、道路空間の構築を行いやすくするため道路法等を改正して制度化された(令和2年)
⇒ https://www.mlit.go.jp/road/hokomichi/index.html

*※2 *「南町田グランベリーパーク」
東急田園都市線南町田駅、240店舗を超えるアウトレット複合商業施設や、スヌーピーミュージアムなどがあるパークライフ・サイト、多様なアクティビティが楽しめる鶴間公園など、さまざまな施設が融合したまち
鶴間公園は運動公園で、指定管理者「TSURUMAパークライフパートナーズ(株式会社石勝エクステリア、東急スポーツシステム株式会社、日本体育施設株式会社)」が管理・運営している
⇒ https://gbp.minamimachida-grandberrypark.com/townguide/

(2025.1.24[Fri]記載)


第175回(2024年11月21日)

■ テーマ:「高経年マンションの管理 〜管理組合の苦悩と工夫〜」
■講師:松本真澄(まつもと ますみ)さん(東京都立大学 都市環境学部 建築学科 助教)

●自己紹介など
本日の話題に関係して、自身が関わってきた著書のいくつかを紹介します。これらの本では、公団の初期住宅団地の住民や暮らしなどを調査研究された内容も書かれています。

・「多摩ニュータウン物語(オールドタウンとは呼ばせない)」(上野淳・松本真澄/鹿島出版会)
・「奇跡の団地阿佐ヶ谷住宅」(三浦展・大月敏雄・志岐祐一・松本真澄/王国社)
・「四谷コーポラス(日本初の民間分譲マンション1956〜2017)」(志岐祐一・松本真澄・大月敏雄/鹿島出版会)

生まれてこの方、ずっと団地での生活を続けてきています。生まれてすぐ物心つく前は中央線沿線の日本住宅公団の賃貸にいて、その後他の分譲団地を経て、高校生ころから現在まで築58年の公団分譲マンションに暮らしています。

学生時代から団地の営繕の専門委員会に参加し、分譲マンションの管理は身近なこととして、ひしひしと感じています。余談ですが、最近住んでいる団地で建替え推進決議が否決されてしまったということがあります。

●現在継続中の高経年マンションの調査について
これまでの研究は団地居住者や高齢者の生活に関することがメインテーマでしたが、高齢化の後に分譲マンションはどうなるだろうかという問題意識も持ち始めていた矢先のタイミングで、長谷工総合研究所とハウジング&コミュニティ財団から高経年マンションの共同研究をもちかけられました。

2019年に八王子・多摩・町田、2021年に世田谷・渋谷、2023年からは横浜市も加え、調査が継続中です。それとは別に個人的な研究として、住棟タイプが混在する団地型分譲マンションの研究も行っています。

調査は、1994年以前竣工のマンションへのアンケート調査、協力の得られた約100件の管理組合へのヒアリング調査、さらに区分所有者・居住者への意識調査も実施しています。

アンケート調査の結果については、長谷工総研のCRIレポートにまとめられたものがあり、多摩市のマンション管理セミナーでも報告していますが、本日は主にヒアリングを通して見えてきたことをお話します。

●マンション管理に関する法制度のおおまかな流れ
マンション管理に関する法制度の大まかな流れを見ると

H12(2000):マンション管理の適正化にの推進に関する法律(マンション管理士制度の創設)
H16:マンション標準管理規約
H31:東京都におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例
R2:「管理状況届け出制度」(S58年以前の建物を対象)
R4:「マンション管理計画認定制度」

などがあり、多摩市でもR5.4月から認定制度の運用を始めています。これにより固定資産税の減免、金融支援、市場評価などのメリットがあるものの、多摩市ではまだ適用は少ないようです。

R6年1月には区分所有法の改正の見直し案が決まり、マンション標準管理規約も6月に改正されています。大きな流れとしては、マンション管理に行政が積極的に関与していくという方向にあります。

2000年前後にはマンション管理に関する研究も多くなされており、管理に関する様々な問題指摘や課題解決の方策も示されていますが、最近では、外部者管理や敷地売却などマンションの終活などが新しいテーマとなっています。

●調査して改めて驚いたマンション管理の問題
アンケートを郵送しても管理組合に届かないことが多くありました。行政では管理組合の範囲が把握できないケースがあります。ただしこの状況は、管理状況届け出制度により解消しつつあります。小規模マンションでは管理組合の郵送を受けとる場所がなく、郵便物が届かないこともあります。

小規模マンションや等価交換マンションでは、そもそも管理規約のない、地主が勝手に敷地を売却してしまうなどの課題やトラブルが非常に多いことがわかりました。それでも、管理士などの専門家が入って、課題解決やマンションの再生に取り組んでいるところも見られます。

管理運営の方法も様々なバリエーションが見られ、区分所有者間の利害対立、価値観の相違からマンション管理を大変なものにしていることが改めて認識できましたが、その中でも解決策や様々な対応もされてきています。

●多様な管理運営形態と理事会の課題
マンションの管理運営の方法には、自主管理、外部者管理、中間的な委託管理があります。最近の新しいマンションではホテルライクな外部者管理が増えており、共働き世帯などには評判がいいということです。

委託管理方式は、一部委託から全部委託まで非常に幅広くなっています。理事会のサポートの方法にも、マンション管理士や建築家、弁護士の協力体制を敷いているケースや専門委員会など居住者の中の専門家、有志によるサポート体制を組んでいるケースもあります。

理事会のなり手がいないということを最近多く聞きます。小規模マンションでは本当に困っているところもありますが、ある程度の規模のマンションでは工夫の仕方もあるように思います。

理事の選び方も、輪番制のほかに半数改選や自薦、他薦など考え方も多様です。専門家の活用についても、積極的に団地内の専門家を活用するところから専門委員会には団地内専門家は入れないところまであります。理事会の役割についても、なんでもかんでもしょい込んでしまう理事会もあれば、できる限りスリム化の工夫をしているところもあります。管理会社の活用もなるべく費用を抑えてという考え方もあれば、費用をかけても利便性や負担の軽減を図ろうというところもあります。大規模修繕のやり方、コミュニティの考え方についても多様です。

●管理運営の問題をどうすればいいか考えてみる
様々にある管理運営の問題を対症療法的に対応しようとしても、理事会が変われば考え方も変わるなど、うまくいかないことがあります。管理組織をどうすればいいか、ガバナンスの問題としてコンセンサスが必要ではないかと思います。

マンションのマスタープランやビジョンを作成しているところもあります。有名なところでは京都の西京極のマンションがありますが、多摩ニュータウンの団地の中にもとてもしっかり運営しているところもあります。特定の団地を取り上げると支障もありそうなので、今日は横浜の団地の事例を紹介します。

横浜市磯子区にある築50年を超えた団地の例です。ここでは給水塔の耐震性の欠如が判明し、その下部に併設されていた集会所を、木造平屋の新しい集会所に建て替えるということもやっています。

ここでは、「団地再生アイデアブック」を作成し再生に取り組んでいます。この団地は700戸程度の規模ですが、理事会運営のスリム化にも工夫しています。例えば住民から、空き駐車場へカーシェアリングの導入といった要望や要求が上がってきたとき、理事会がやるのではなく、言い出しっぺの住民に、検討組織を作って総会にかけるための資料づくりまでまかせてしまうというやり方もしています。

理事会業務を見直してみること、スリム化の工夫の可能性はありそうです。管理人とは別に、フロント業務の経験者などを理事会のサポート要員として雇用し、小修繕やトラブル対応などをやってもらっているところもあります。また専門委員会に執行権限まで任せて、理事会は承認、決裁機能のみとしているところなど、様々なタイプのおもしろい運営の仕方、取り組みがあることがわかり、今後研究を深めていきたいと思っています。

●まとめとして、持続可能なマンション管理に向けて
高経年マンションでも団地のカラーや個性の違いがあり、団地のマスタープランやビジョンを内部で共有し、見える化して開示していくことが重要です。高経年マンションでも50年、55年もたてば、居住者は入れ代わります。買い取り再販などで若い人も入ってきます。その時に、団地のカラーや違いがわかり、団地選択の判断の一助になればいいと思います。

調査は今年度3月ごろまで継続し、その後取りまとめということになるそうです。まとまった段階で、新たな知見も含めてこのサロンで発表していただく機会を設けようと思います。

質疑応答では、解決策までは見つからないまでも、コミュニティの問題や理事会の疲弊、高齢化や心身の問題を抱える高齢者の増加、理事会の報酬と管理方式との関係性、建替えや賃貸居住者の問題、郊外の住宅需要のない立地での終活などの問題提起や議論がありました。また、参加者からJRC48(リジチョウ48)という理事長経験者によるネットコミュニティの情報提供もありました。

松本さん、調査継続中のなかで貴重なお話をありがとうございました。

(2024.11.29[Fri]記載)


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