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2024年11月分

第175回(2024年11月21日)

■ テーマ:「高経年マンションの管理 〜管理組合の苦悩と工夫〜」
■講師:松本真澄(まつもと ますみ)さん(東京都立大学 都市環境学部 建築学科 助教)

●自己紹介など
本日の話題に関係して、自身が関わってきた著書のいくつかを紹介します。これらの本では、公団の初期住宅団地の住民や暮らしなどを調査研究された内容も書かれています。

・「多摩ニュータウン物語(オールドタウンとは呼ばせない)」(上野淳・松本真澄/鹿島出版会)
・「奇跡の団地阿佐ヶ谷住宅」(三浦展・大月敏雄・志岐祐一・松本真澄/王国社)
・「四谷コーポラス(日本初の民間分譲マンション1956〜2017)」(志岐祐一・松本真澄・大月敏雄/鹿島出版会)

生まれてこの方、ずっと団地での生活を続けてきています。生まれてすぐ物心つく前は中央線沿線の日本住宅公団の賃貸にいて、その後他の分譲団地を経て、高校生ころから現在まで築58年の公団分譲マンションに暮らしています。

学生時代から団地の営繕の専門委員会に参加し、分譲マンションの管理は身近なこととして、ひしひしと感じています。余談ですが、最近住んでいる団地で建替え推進決議が否決されてしまったということがあります。

●現在継続中の高経年マンションの調査について
これまでの研究は団地居住者や高齢者の生活に関することがメインテーマでしたが、高齢化の後に分譲マンションはどうなるだろうかという問題意識も持ち始めていた矢先のタイミングで、長谷工総合研究所とハウジング&コミュニティ財団から高経年マンションの共同研究をもちかけられました。

2019年に八王子・多摩・町田、2021年に世田谷・渋谷、2023年からは横浜市も加え、調査が継続中です。それとは別に個人的な研究として、住棟タイプが混在する団地型分譲マンションの研究も行っています。

調査は、1994年以前竣工のマンションへのアンケート調査、協力の得られた約100件の管理組合へのヒアリング調査、さらに区分所有者・居住者への意識調査も実施しています。

アンケート調査の結果については、長谷工総研のCRIレポートにまとめられたものがあり、多摩市のマンション管理セミナーでも報告していますが、本日は主にヒアリングを通して見えてきたことをお話します。

●マンション管理に関する法制度のおおまかな流れ
マンション管理に関する法制度の大まかな流れを見ると

H12(2000):マンション管理の適正化にの推進に関する法律(マンション管理士制度の創設)
H16:マンション標準管理規約
H31:東京都におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例
R2:「管理状況届け出制度」(S58年以前の建物を対象)
R4:「マンション管理計画認定制度」

などがあり、多摩市でもR5.4月から認定制度の運用を始めています。これにより固定資産税の減免、金融支援、市場評価などのメリットがあるものの、多摩市ではまだ適用は少ないようです。

R6年1月には区分所有法の改正の見直し案が決まり、マンション標準管理規約も6月に改正されています。大きな流れとしては、マンション管理に行政が積極的に関与していくという方向にあります。

2000年前後にはマンション管理に関する研究も多くなされており、管理に関する様々な問題指摘や課題解決の方策も示されていますが、最近では、外部者管理や敷地売却などマンションの終活などが新しいテーマとなっています。

●調査して改めて驚いたマンション管理の問題
アンケートを郵送しても管理組合に届かないことが多くありました。行政では管理組合の範囲が把握できないケースがあります。ただしこの状況は、管理状況届け出制度により解消しつつあります。小規模マンションでは管理組合の郵送を受けとる場所がなく、郵便物が届かないこともあります。

小規模マンションや等価交換マンションでは、そもそも管理規約のない、地主が勝手に敷地を売却してしまうなどの課題やトラブルが非常に多いことがわかりました。それでも、管理士などの専門家が入って、課題解決やマンションの再生に取り組んでいるところも見られます。

管理運営の方法も様々なバリエーションが見られ、区分所有者間の利害対立、価値観の相違からマンション管理を大変なものにしていることが改めて認識できましたが、その中でも解決策や様々な対応もされてきています。

●多様な管理運営形態と理事会の課題
マンションの管理運営の方法には、自主管理、外部者管理、中間的な委託管理があります。最近の新しいマンションではホテルライクな外部者管理が増えており、共働き世帯などには評判がいいということです。

委託管理方式は、一部委託から全部委託まで非常に幅広くなっています。理事会のサポートの方法にも、マンション管理士や建築家、弁護士の協力体制を敷いているケースや専門委員会など居住者の中の専門家、有志によるサポート体制を組んでいるケースもあります。

理事会のなり手がいないということを最近多く聞きます。小規模マンションでは本当に困っているところもありますが、ある程度の規模のマンションでは工夫の仕方もあるように思います。

理事の選び方も、輪番制のほかに半数改選や自薦、他薦など考え方も多様です。専門家の活用についても、積極的に団地内の専門家を活用するところから専門委員会には団地内専門家は入れないところまであります。理事会の役割についても、なんでもかんでもしょい込んでしまう理事会もあれば、できる限りスリム化の工夫をしているところもあります。管理会社の活用もなるべく費用を抑えてという考え方もあれば、費用をかけても利便性や負担の軽減を図ろうというところもあります。大規模修繕のやり方、コミュニティの考え方についても多様です。

●管理運営の問題をどうすればいいか考えてみる
様々にある管理運営の問題を対症療法的に対応しようとしても、理事会が変われば考え方も変わるなど、うまくいかないことがあります。管理組織をどうすればいいか、ガバナンスの問題としてコンセンサスが必要ではないかと思います。

マンションのマスタープランやビジョンを作成しているところもあります。有名なところでは京都の西京極のマンションがありますが、多摩ニュータウンの団地の中にもとてもしっかり運営しているところもあります。特定の団地を取り上げると支障もありそうなので、今日は横浜の団地の事例を紹介します。

横浜市磯子区にある築50年を超えた団地の例です。ここでは給水塔の耐震性の欠如が判明し、その下部に併設されていた集会所を、木造平屋の新しい集会所に建て替えるということもやっています。

ここでは、「団地再生アイデアブック」を作成し再生に取り組んでいます。この団地は700戸程度の規模ですが、理事会運営のスリム化にも工夫しています。例えば住民から、空き駐車場へカーシェアリングの導入といった要望や要求が上がってきたとき、理事会がやるのではなく、言い出しっぺの住民に、検討組織を作って総会にかけるための資料づくりまでまかせてしまうというやり方もしています。

理事会業務を見直してみること、スリム化の工夫の可能性はありそうです。管理人とは別に、フロント業務の経験者などを理事会のサポート要員として雇用し、小修繕やトラブル対応などをやってもらっているところもあります。また専門委員会に執行権限まで任せて、理事会は承認、決裁機能のみとしているところなど、様々なタイプのおもしろい運営の仕方、取り組みがあることがわかり、今後研究を深めていきたいと思っています。

●まとめとして、持続可能なマンション管理に向けて
高経年マンションでも団地のカラーや個性の違いがあり、団地のマスタープランやビジョンを内部で共有し、見える化して開示していくことが重要です。高経年マンションでも50年、55年もたてば、居住者は入れ代わります。買い取り再販などで若い人も入ってきます。その時に、団地のカラーや違いがわかり、団地選択の判断の一助になればいいと思います。

調査は今年度3月ごろまで継続し、その後取りまとめということになるそうです。まとまった段階で、新たな知見も含めてこのサロンで発表していただく機会を設けようと思います。

質疑応答では、解決策までは見つからないまでも、コミュニティの問題や理事会の疲弊、高齢化や心身の問題を抱える高齢者の増加、理事会の報酬と管理方式との関係性、建替えや賃貸居住者の問題、郊外の住宅需要のない立地での終活などの問題提起や議論がありました。また、参加者からJRC48(リジチョウ48)という理事長経験者によるネットコミュニティの情報提供もありました。

松本さん、調査継続中のなかで貴重なお話をありがとうございました。

(2024.11.29[Fri]記載)


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