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2025年09月分

第180回(2025年9月18日)

■テーマ: 『日本の原風景99 』を歩く
■講 師: 近藤正文(こんどう まさふみ)さん
■講師略歴:1946年岡山県に生まれる。京都大学工学部卒・同大学院修了/環境計画や都市計画を学ぶ。日本住宅公団に入社/団地やニュータウンの計画に携わる。著書「日本の原風景99」(いりす・同時代社2025.1)。同書出版記念写真展(街々書林2025.4)。)

近藤さんは京都大学卒業後、日本住宅公団に入社され、団地計画やニュータウン開発に携わってこられました。街づくりの仕事に関わる中で、半世紀余りにわたって様々な地域の伝統的なむらやまちを歩いてこられました。

このたび、撮りためられた写真をまとめ、「日本の原風景99」(同時代社)という本を出版されました。今回は、そのご著書から、伝統的な風景をとどめるいくつかのむらやまちをとりあげ、その歴史的背景や魅力をご紹介いただきました。

●「たび(他火)の面白さ」と原風景について
日本の原風景99の“99”とは、たくさんある中で、皆さんがそれぞれにお持ちの原風景を加えてもらって、100にしていただければいいという意味も込めています。

旅の語源は「他火」にあるといわれます。自分の棲家を離れ、他所の土地に出かけると、何はさておき食することが不可欠です。「他人の火」にお世話になり、火を囲んで四方山話に花が咲くと、面々の顔が暗闇に白く浮かび上がります。この興に乗った情景を「面白い」と表しました。他火(旅)は面白さに溢れています。

原風景とは非常に難しいんですが、自分が生まれ育ったところが原点にあり、、そこから広がっていくというような感じかと思います。皆さんそれぞれにその原風景の物差しはかなり違うんじゃないかなと思います。例えば北海道の小樽の風景と沖縄竹富島の風景では、それぞれ感じ方も違うし、自分の原風景ということにはならないと思います。

日本人のふるさとともいえるヤマト。奈良県の明日香村の飛鳥集落はなだらかな丘陵地に水田や民家が溶け込んでいて、茅葺に高塀の大和棟という建物が立ち並んでいます。一方、滋賀県の五箇荘金堂町は近江商人のゆかりのまちで、白壁、舟板塀の蔵屋敷が残されています。これらを自分の原風景に近いと感じる方もいるかもしれません。

●風景の比較考証
・雪国のミセの比較〜黒石のこみせと高田の雁木
青森県黒石市の「こみせ」は大きな屋敷の表通りに設けられた庇付きの通路で、主屋1階の高さに合わせています。一方、新潟県上越市、高田の雁木は総延長16キロあり、間口の狭い商家に設けられており、高さや意匠、舗装もまちまちで、庇の高さが雁行するように見えることから「雁木」と言われたのだと考えられます。

・城下町の比較〜金沢と萩
金沢市長町は大野庄用水に沿って続く武家屋敷で、からし色の土塀や石垣などが美しい街並みとなっています。一方萩は二つの河川に挟まれた低地に碁盤上の道路形態で単調だが、塀の作り方が各屋敷によって異なった表情を見せていて個性的です。

・白山を挟んだ二つの秘境集落〜白川郷と白山市白峰
岐阜県白川郷の萩町は60度近い勾配の茅葺屋根の家屋が秩序をもって建ち並んでいます。一方、白山を挟んで20キロメートル程度しか離れていない石川県白山市の白峰の集落は手取川の谷合にあり、開放的な屋敷構えが特徴で4寸勾配程度の石置き屋根、大壁造りでの小窓のある建物など、同じ養蚕業を生業としまた浄土真宗の宗派の村でありながら全く様相が異なっていて面白いと思います。

・水との闘い〜砺波と安曇野
水を生活に生かしてきた二つの村をみてみます。富山県砺波平野に広がる散居村は、庄川と小矢部川が形成した扇状地に広がります。暴れ川だった庄川に加賀藩の時代に堤防が築かれ、多くの人たちが入植するようになって形作られてきました。長野県の安曇野は北アルプスから流れる河川によって形成された複合扇状地で、水利確保が課題でした。江戸時代に、大規模な用水路「拾ヶ堰(じっかせき)」がつくられました。等高線に沿って流れる拾ヶ堰は、ところによって常念岳に向かって流れているような錯覚を覚えます。

・風との闘い〜輪島市上大沢と山口の祝島
石川県輪島市の上大沢では、冬の季節風から家屋を守るため、竹ぼうきを逆さに並べ立てたような「間垣」で集落の外周を囲っています。山口県上関町の祝島では防風、防火のため、白練壁が迷路のように通りをめぐっていて、この通りのことを家と家の隙間という意味の「あいご」と呼ばれています。

太平洋側と日本海側では、防風壁がかなり違っていて、太平洋側は石の“剛”の様相のものが多くみられます。愛媛県西海半島外泊の石垣の里、佐多岬半島野坂の防風石塀や井野浦の石造りの防風畔、志摩半島大王崎波切の石塀、伊豆半島松崎の海鼠壁で覆われた建物などが見られます。

一方日本海側は“柔”の竹や板のものが多く見られます。島根県鷺浦の防風竹垣、新潟県宮川の板塀、青森県津軽半島脇元の板塀「カッチョ」、北海道江差の「ハネダシ」などがあります。

●特殊解的な事例
・京都府伊根町 “伊根”の舟屋
若狭湾はブリ漁が盛んなところで、海に面して舟屋があり、その奥に道路を挟んで母屋があります。昭和の初期にバスを通すために、集落内の通路や畑などの土地を出し合って道路を拡げたことで海辺に舟屋が残されました。

・鹿児島県 “知覧”の麓集落
薩摩藩の武家屋敷群のひとつで、「馬場」と呼ばれる道の両側に石垣で囲まれた屋敷が並んでいます。石垣の上にはイヌマキや茶の木で生垣がつくられ、屋敷の中には庭園が造られて、箱庭のような集落ができています。

・兵庫県佐用町 “平福”の至福の川端
平福は因幡街道の作用川の川沿いに蔵造の建物が並んでいます。川端には美しい暮らしの空間が広がっています。川べりの土蔵群も味ある建物ですが、最近の水害で今では塗り替えられてしまっています。

・広島県福山市 “鞆の浦”
日本でも古い港町の一つで、潮の干満で船を動かすという港町で、人や物の交流が盛んで、さまざまな歴史上の舞台にもなっているというまちです。湾岸には船をつける大規模な雁木、金毘羅大権現の常夜灯、いろは丸展示館の大蔵、高台には寺院、神社が並んでいます。

・岡山県真庭市 高瀬舟の終着駅“勝山”
旭川の最上流にあり高瀬舟の終着駅となっていたまちです。河岸と商家は「雁木」という階段でつながっていて、特徴的な景観は往時のにぎやかさを伝えています。

・大分県 坂のまち“杵築”
国東半島の付け根にある街です。杵築城を東端として城下町が広がっており、武家屋敷が並ぶ南北の台地、それらに挟まれ商店が並ぶ谷あいの商人の町があり、複雑な地形のなかに丁寧に坂道が造られていて、函館や江戸の坂道とは一味違う雰囲気を持っています。

・秋田県横手市 “増田”の内蔵
中七日町通りには切妻造妻入を主とする家屋や、その背後に接続する鞘(さや)と呼ばれる上屋で覆われた内蔵(うちぐら)が現存しています。内蔵は、豪雪地帯増田ならではのつくりをしており、美しく塗り上げられた漆喰や漆など、当時の最先端の左官技術を駆使した意匠がみものです。

・愛媛県愛南町 水荷浦(みずがうら)の段畑
宇和海に面した急峻な斜面全体に石垣を積んだ段畑が築かれ、まさに「耕して天に至る」と言われる景観です。人々の長い営みと労苦を実感させる圧倒的な景色となっています。
・山形県鶴岡市 修験道の里“手向(とうげ)”
「たむけ」がなまって「とうげ」になったといわれています。出羽三山の門前町であり、宿坊や土塁など歴史的に貴重なまち並みが残されています。写真は出羽三山神社への2446段の石段です。全国各地から訪れる信者を宿坊でもてなし、出羽三山に導く営みが継承されています。

・佐賀県伊万里市 秘窯・鍋島の里“大河内山(おおかわちやま)”
肥前鍋島藩の直轄の御用窯が置かれ、将軍や大名への献上品、贈答品として制作された最高級の磁器「鍋島焼」が生産された場所で、現在は「秘窯の里」と呼ばれています。今なお約30の窯元が伝統の製法を守り次の世代へと受け継いでいます。

●武蔵野東久留米市 国木田独歩の世界“柳窪”
柳窪は東久留米市の小平霊園のそばになりますが、武蔵野の面影を色濃く残した屋敷林が広く残っています。江戸時代には玉川上水がひかれ新田開発が進み、屋敷林や雑木林を持つ家屋ができるようになりました。柳窪の集落は自然発生的に形成されたもので、黒目川沿いに不規則に広がり、屋敷林の中に畑や民家、小川が見え隠れするというまさに国木田独歩の武蔵野の世界があります。

いま、この辺りが相続などにより戸建て住宅地に変わりつつあります。柳窪を残していくための運動も始めているところです。

近藤さん、たくさんの事例写真とともに、風景の比較考証や各地のそれぞれの風景の成り立ちや根付いている人々の暮らしなどもご紹介いただき、ありがとうございました。充実したお話の内容をつたないまとめで、十分には伝えきれないことをご容赦ください。皆さんも近藤さんのご著書をご覧いただければと思います。

サロンの数日後の日経新聞に輪島市上大沢の間垣集落が、地震と洪水の影響で住民が帰還をあきらめる例が多く、家屋の解体も進み存続の危機にあるという記事が掲載されていました。風景は人々の暮らしとともにあるとはいえ、自然災害により暮らしそのものが成り立たなくなることもあるという現実を思い、近藤さんの著書のように、価値ある風景をその背景となる暮らしや歴史などとともに残していくことの価値を改めて感じました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD200U30Q5A920C2000000/

(2025.9.30[Tue]記載)


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