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 木曜サロン
  記録・報告
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2025年08月分
■ テーマ:「食と農と環境をつなぐ教育から地域連携へ ー恵泉女学園大学での30年を振り返ってー」 ■講 師:澤登早苗(さわのぼり さなえ)さん ■講師略歴:恵泉女学園大学名誉教授、自由学園非常勤講師、元有機農業学会会長、 Life Lab 多摩代表, フルーツグロアー共同代表
澤登先生には2016年5月の第13回木曜サロンでもお話していただき、今回2回目の登壇です。今回は、恵泉に着任された1994年から約30年をふりかえり、5期に分けてお話しいただきました。
澤登先生は大学院までは一般的な農業を学ばれてきたそうですが、1993年に国際有機農業運動連盟第1回アジア会議にボランティアとして参加し、「緑の革命」*1がもたらしたアジアの農村における貧困化等に衝撃を受けたと同時に日本の農村も同じ問題を抱えていて、これからの解決の道をアジアの人と一緒に何かできると思ったことが有機農業運動に積極的に取り組むきっかけとなりました。また、当時のボランティア活動での出会いが、恵泉女学園大学(以下、恵泉)に勤めることに繋がったとのことです。
●第1期(1994年〜1998年)畑を有機栽培農場へ転換(非常勤講師) 当時、有機農業は異端児扱いの時代でしたが、恵泉の平和学研究者の提案で、有機栽培取組みへの道が開けました。恵泉には農学部がなかったことも功を奏したようです。有機物(藁、畳、草など)を入れての土壌改良、水を加えて発酵を促進させた鶏糞(曰く、ドロドロ鶏糞)の使用などを繰り返し、学生たちとともに畑の有機栽培への転換が実現しました。
●第2期(1999年〜2005年):人を育てる有機農業、生活園芸プログラムの確立(専任教授) 人間環境学科(2001年開設)に開設当初から関わり、人文科学系の大学で有機農業のもつ多面的機能を活かす「有機農業で人間形成を行う」という新たな視点を持ち込みました。同じく2001年には教育機関としては全国初の有機JAS認証を取得し、生活園芸プログラムの確立に取り組みました。「生活園芸I」では学部学科を問わず全ての学生がキャンパスに隣接した教育農場で有機園芸を体験します。また、子育て支援施設「あい・ぽーと」(南青山・2003年開設)での親子有機野菜教室などの実践、海外でのフィールドスタディで現地の有機農業の実態見聞や学生参加のプログラムも実施しました。
●第3期(2006〜2010年):国際連携と「特色ある大学教育支援プロジェクト(特色GPプロジェクト)」 第3期はJICAのプロジェクトなどにより様々な国との国際連携、交流の時期で、2009年には「アグロエコロジー」*2の提唱者を迎えて国際シンポジウム&ワークショップ開催、オーガニックショップ(恵泉内・2010年開設)では国内外の農産物販売などを実施しました。また、2006年度にはフィールドスタディを中心とした教育プログラムが、2007年には教養教育としての生活園芸が、それぞれ文科省の「特色GPプロジェクト」に選定され、体験学習プログラム、生活園芸プログラムのさらなる充実に励んできました。 そして、2006年5月に木曜サロンでの登壇が地域と様々なつながりができるきっかけとなり、地域の方々との活動、公民館講座など地域での活動に積極的に取り組まれました。
●第4期(2011〜2019):福島原発事故と有機農業、生活園芸から社会園芸へ 2011年の東日本大震災と福島原発事故は、「人と自然」「人と人」の関係、有機農業が有する多面的な機能の活用について改めて見直す時期となりました。緊急セミナー「農業と原発は共存できない〜私たちは福島と共に生きていく」開催(2011.5)、福島キッズアンドリフレッシュキャンプの実施。オーガニックカフェ(2012年常設化)では福島の有機農産物の販売などを実施してきましたが、会場となっていた南野キャンパスの売却とその後のコロナ禍で活動は中止となってしまいました。2013年設置の社会園芸学科は、心理と園芸の学びを通して「人と人」の関係を豊かにする工夫を考えることを目的とし、有機農業の多面的機能を活用して社会・地域の問題解決を地域と連携して取り組んでいく学科です。(多摩市の花壇アダプト、レイズドベッドを利用した園芸療法、大学との三者連携で運営してきたグリーンライブセンタ―等々、様々な場面で学生たちが地域の皆さんにお世話になりました。)
●第5期(2020〜2023年)コロナ禍を経て、現在まで コロナ禍では授業やプロジェクトが大きな影響を受けました。しかし、2021年にNPO「LifeLab多摩」を設立し、子育て支援施設「あい・ぽーと」で始めた「キッズ交流ガーデン」の類似プログラムの継承や教職員・学生有志で運営する恵泉CSA*3では“食べる人と作る人を直接つなぐ”を目指した活動の一つとして八角堂(豊ヶ丘)でも野菜等の販売・地域との交流を行っています。また、「庭から育む食と地域〜オーガニック・エディブル・コミュニティガーデン多摩の実践」として、2021年春から地域団体と一緒に豊ヶ丘商店街の一角にある広場にコミュニティガーデンを設置し、高齢者の外出機会、住民同士がつながる機会を作ることを目的として、月1回園芸を楽しんでいます。(ソーラーパネル、雨水貯水タンク、レイズドベッド、段ボールコンポストなども設置) 恵泉女学園大学は終わりますが、2023年には「未来につながる持続可能な農業推進コンクール」(農水省)において長年の有機農業を軸とした取り組みに対して賞をいただくことができました。
多摩ニュータウンには公園はたくさんありますが、公共施設で食料の生産はできません。一方農地はどんどん減少しています。農地が持っている多面的機能(農産物の生産の場、災害時の避難場所、交流の場など)に目を向け、市民側からもアプローチしていくことが大事だと思います。持続可能な社会を考えたとき、農地をなるべく残しながら、農地管理の在り方、農家の方との関わり方も考えていくことが必要です。若い人の中には農業後継者として頑張っている人もいますから、そういう人たちとの交流も深めていけたらということも考えています。
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澤登先生、恵泉30年の歴史を振り返りつつ、先生のこれまでのたくさんの取組や有機農業への考え、地域とのかかわりなど多岐にわたる、興味深いお話をありがとうございました。 充実したお話の内容をつたないまとめで、十分には伝えきれないことをご容赦ください。また、過不足や間違いがありましたらご指摘ください。 恵泉女学園大学は、2026年春で閉校となりますが、澤登先生と学生さんたちが多摩に残された有機農業や生活園芸、社会園芸の足跡はこれからも引き継がれていくものと信じています。澤登先生にも、ご自身のNPOを通じた活動で、これからも多摩ニュータウンとのご縁が続くことを祈念しております。ありがとうございました。
*1緑の革命:1960年代から1970年代にかけて、開発途上国を中心に、穀物の生産量を飛躍的に増加させることを目的として行われた農業技術の革新。品種改良、化学肥料、灌漑、農薬、農業機械などの導入によって、食料不足の解消を目指した。(AI) *2アグロエコロジー:農業(agro)と生態学(ecology)を組み合わせた造語。従来の慣行農業における環境負荷を減らし、持続可能な農業だけでなく、農場から食卓、持続可能なフードシステムを模索する概念。生態学を応用し、自然の力を利用して、農薬や化学肥料に頼らない農業を実践すること、消費者と生産者の関係、食べ方を見直し、出来るだけ短い距離で流通することを目指す。(AI) *3恵泉CSA:恵泉コミュニティ・サポート・アグリカルチャー
(2025.8.17[Sun]記載)
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