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2021年01月分

第152回(2021年1月21日)

■テーマ:「多摩ニュータウン開発と社寺の関係にみるまちのでき⽅/つくり⽅」
■講師:高原柚(たかはら ゆう)さん(東京⼤学⼤学院⼯学系研究科建築学専攻博⼠課程 )

高原さんは東京大学大学院博士課程で藤森照信研直系の林憲吾研究室に所属され、建築学を研究されています。人や物が集まって、多様で雑多な主体の織り成す偶然性を有する都市の面白さに興味を持ち、建築学を志すことになったということです。

過密がもたらす都市問題へ対応するため、ハワード、ペリー、コルビジェ、丹下など内外の建築家や都市計画家により近代都市計画の理念が様々に提唱されてきました。
本来、都市は気候、地形、文化、制度、人々の営みの影響を受け、理念では成立しえないものであるのに、近代都市計画の理念に導かれ、都市計画家やデベロッパーにより、都市がつくられているという誤解があるのではないか、と疑問を持たれます。
哲学者・鷲⽥清⼀は、快適な住環境として造り上げられたニュータウンに⽋けている3つのものとして、宗教施設・古い⼤⽊・街中の闇、「つまり⼀種のいかがわしさを持った盛り場のような“陥没地帯”」を挙げました(『普通をだれも教えてくれない』(潮出版社、1998))。「ニュータウンには本当に“陥没地帯”はないのか」という疑問から、「まちができること」「まちをつくること」を⾒つめ直すために、高原さんは宗教施設に着目した研究をされています。

卒業論文は「教会堂のコンバージョンにみる建築空間の聖性 ―イングランド国教会の制度と 3つのケーススタディから考える―」(バー、サーカス劇場等への転用事例)。
修士論文は「公共空間としての宗教空間の可能性:多摩ニュータウン開発を事例として」(多摩ニュータウン開発の影響を受けた社寺)。そして、今後の研究は戦後シンガポールの都市開発と宗教空間がテーマだそうです。

多摩ニュータウンには、現実に開発前から存在していた寺社が多くあり、決して何もないところにニュータウンがつくられたわけではありません。高原さんは、多摩ニュータウンに残る寺社を、立地や造成の有無、事業前後の移動の有無などにより分類し、個々の寺社がどう扱われ、住民の意識の中でどのように存在していたのか、個別に調査し、その結果を新旧の図面や開発前の写真、地域の方が残したスケッチ画などとともに紹介していただきました。

既存の寺社は土地区画整理事業区域と新住宅市街地開発事業の境界に存在することが多く、その事業による寺社の変化に違いがあることもわかりました。土地区画整理事業では寺社と既存集落との関りが強く、同じ場所に残せることが多いのに対し、新住区域では山中にあるものが多く、全面買収方式の事業であるため寺社は移動されることが多いということです。

多摩ニュータウンの開発では、多くの地権者や住民の協力が必要であったため、開発者は既存住民や氏子の意向は無視できなかった。また、開発側からは、既存住民のみならず、新住民にとっても良い環境をつくるという考えから、既存住民の要求を可能な限りかなえたいという双方の思いの結果ではないか。

都市における宗教空間の役割は、コミュニティの中心であり、地域の記憶継承の空間である。ニュータウンでは新しく宗教空間を設置することができないがゆえに、既存の宗教空間は継承したかったという計画者の姿勢があったのだと、高原さんは指摘されています。
まとめとしての高原さんの言葉は、「既存環境には、そこを利用する人々の生活文化が根付いている。 都市をつくるにあたってそれら既存環境は決して無視できない。既存環境を活用することによって、共同体の拠点を住民自身の手によってつくることができる。都市の主役は住民である!」
「住民自身による既存環境に対する解釈や活用に対する原動力があり、それを生かそうとする計画サイドの姿勢の重要性ということを再認識した。こういう意識を今後の歴史研究に生かしていきたい。」と話されていました。

意見交換では、多摩ニュータウンは既存集落を含んだ開発であったがために、宗教施設を大切に扱わざるを得なかった。そのために既存住民との対話を重視し、施設空間を残すこともできたという、日本のニュータウンの中では幸せなニュータウンだという指摘もありました。

多摩ニュータウン開発にかかわってこられた計画者のはなしでは、宗教施設を意識して記録に残すということをしていなかったので、今回、高原さんと一緒に作業する中で、改めて記録を残すことができたということです。また、公的開発においては宗教施設の扱いは慎重にならざるを得ないのに比べ、民間開発では寺を誘致してしまうこともできるという事例の話もありました。

今後は、幸せな多摩ニュータウンと、全国の他のニュータウンや民間開発における宗教施設の扱われ方の比較や外国の事例との比較など、高原さんの研究が一層深まり、続編のお話を聞かせていただけることを期待しています。

2021.1.31[Sun]記載)


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