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2024年09月分
■ テーマ:「フットパスによる未来づくり」 ■講師: 神谷由紀子(かみや ゆきこ)さん(NPO法人 みどりのゆび理事・事務局長)
●「みどりのゆび」とは、「フットパス」とは 「NPO法人みどりのゆび」は緑地保全、まちづくり、里山の農業に対する支援、基金活動や将来の子供達への環境教育などを目的とし、自然・歴史のウォーキング(フットパス)開催、マップや環境教材の制作、緑地の管理(町田市からの委託)、農業の支援、安全な食物の確保と流通、緑地保全基金活動などを行っています。 みどりのゆびの名前の由来は、フランスの同名の童話に描かれた精神を未来を担う子供たちに引き継いでいきたいという願いから名付けられたものだそうです。(「みどりのゆびHP」から)
今回のテーマである「フットパス」とは、イギリスを発祥とする“森林や田園地帯、古い街並みなど地域に昔からあるありのままの風景を楽しみながら歩くこと【Foot】ができる小径(こみち)【Path】」のことであり、ひいてはこのみちを歩くことの総称ということです。(「日本フットパス協会」)
みどりのゆびのフットパス活動は、約30年の歴史があります。また、町田市の石阪市長が会長となって、日本フットパス協会も設立され、65団体が会員となっています。全国でフットパス団体は122、575のコースが設置されているということです。
●フットパスをはじめるきっかけ そもそもの始まりは、鶴川駅東側に広がる”能ケ谷の森”の開発計画をきっかけとして、町田市の北部に広がる丘陵の緑を保全しようという市民活動だったそうです。1992年に神谷さんを代表とする「鶴川地域まちづくり市民の会」が結成され、町田市との協働によるまちづくり活動を始められます。
小野路や小山田などの町田市の北部丘陵地を開発の圧力から守り保全するためにはどうすればいいか、地域の農業の維持、後継者、相続などの多くの問題に解決策を見出すことができない状況でした。そういう中で、イギリスにも住んでおられた神谷さんの母親の言葉から、自然や田園風景の残るこんないいところなんだから、マップを作って、多くの人を案内してみようと思い立ったそうです。
1999年には「鶴川村散歩道案内」を発行し、多摩丘陵を案内する「みどりのゆび」の運動をはじめられます。東京農大の進士学長や麻生教授の指導のもと、日本財団の助成により「多摩丘陵フットパスマップ1」を作成することになりますが、初めから「フットパス」の概念があったわけではなく、神谷さんたちがはじめられた活動が、まさにイギリスのフットパスと同じだという麻生教授の指摘があって、フットパスを名のることになったそうです。
2001年に東京農大の進士学長を初代理事長として、NPO法人の設立総会が開催されます。その後、フットパスガイドマップは合計4冊が刊行されています。
●フットパスからのまちづくり みどりのゆびのフィールドの小野路地域には小野路宿の歴史的な街並み、新選組由来の歴史のある布田道(ふだみち)や六地蔵などの地域のシンボルも残り、里山や谷戸の棚田などの豊かな自然や風景もあります。ここで、年に1,2回、100人規模の参加者でにぎわうフットパス祭りが開催されています。
農家の人たちの理解と協力を得て、地域の食材や料理でもてなし、参加者は地域の人たちとの共同作業を通じ、小野路の生活様式や生活文化に触れ、地域の人たちとの交流やふれあいが生まれています。地域に対しては多少の経済的な貢献もでき、これまで多摩ニュータウン開発を横目で見ながら、格差を感じていた地域の人たちは自分たちの生活文化や食と自然の資源の豊かさを見直し、自信を持つようになりました。
町田市との協働・協力体制もでき、小野路宿に残っていた名主屋敷を町田市が買い取り、コミュニティ施設「小野路宿里山交流館」をオープンしました。当初の予想を覆すような1日100人、これまでに30万人もの来訪者もあって、いまでは30人程度の地域の人たちの働く場所にもなっています。
小野路の評判は、町田市全体のイメージアップにもつながり、住んでみてよかった街の上位にランクされるようになりました。
このような経験から、神谷さんはフットパスは地域や町に自信と誇りをもたらし、まちづくりにつながる。フットパスはまちづくりであるということがわかったと言われます。 神谷さんは、フットパスは、『地域資源の再発見につながり、地域のファンを増やす。また地域の共同体を再生し、様々な人たちとの交流や共同作業の場、プラットフォームを形成し、地元の農林業にも貢献でき経済効果も生まれる。』などの効果をもたらすと評価されています。
●フットパスから生まれる全国・世界との交流 2006年から2008年には、他の自治体とのフットパスの交流が始まり、シンポジウムも開催されます。2009年には石阪町田市長を会長に町田市観光協会に事務局を置く、日本フットパス協会が65団体の構成メンバーで発足します。
2010年にはフットパスの本場であるイギリスの関連団体との交流も始まり、WaW(Walkers Are Welcome)の代表を日本に招待、またイギリスを訪れてフットパスを歩き、日本のフットパスについて講演もされています。
日本の他地域のフットパスもたくさんご紹介していただきました。詳しくはご紹介できませんが、熊本、最上川の山形県長井市、ワインの里の甲州勝沼、札幌近郊の黒松内、南幌、富良野など、写真を見せていただきながら、一度訪れてみたいと思うようなところばかりだと感じました。
●フットパスのこれから イギリスのフットパスは、産業革命後の民衆の生活環境や生活水準の向上欲求から、生活を少しでも豊かなものにしようというところから始まりました。日本でもバブル崩壊後、自分たちの生活を見直し、自分たちの地域や町のいいところを見つけていこうというところから、始まってきたものです。
フットパスの貢献ということでは、地域レベルでは”地域にかかわって暮らす”ことができます。近年、地方や田舎への移住も増えて、地域を再評価する動きが生まれています。フットパスは地域のいいところ、誇れる資源などの点をつないで線にしていき、それが集まって面になるという、いわば地域版SDGsのテーマパークともいえます。さらに地域の自給力づくりにつながります。
全国レベルでは、共感する優しい社会づくりに貢献できます。双方向の助け合いのネットワークは地域どおしのつながりを強固にし災害時に相互扶助の力として生きてきます。 神谷さんからは、「皆さんも、地域の古い街並みやありのままの自然など、地域の面白い、いいなと思えるものを探してみてください。」とのメッセージでした。
フットパスとは、単に歩いて楽しむだけのものではなく、自分の周りの地域の資源を見出し、さらに他の地域や世界に向けた発信と交流、これらを通じた地域経済の再生や再発見ということまで視野に入れて活動されていることがよくわかりました。 紹介していただいた、フットパスガイドマップ(全4冊)、今日のお話と関連する神谷さんのご著書「フットパスによるまちづくり」「フットパスによる未来づくり」は「みどりのゆびHP」から申し込みできます。 → https://www.midorinoyubi-footpath.jp/books.html
神谷さん、貴重なお話をありがとうございました。
(2024.9.24[Tue]記載)
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