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2024年07月分

第173回(2024年7月18日)

■ テーマ: 「多摩草むらの会 〜その理念と活動〜」
■講師: 風間 美代子(かざま みよこ)さん(NPO法人多摩草むらの会 代表理事)

多摩草むらの会は、障がい者の家族が集まって発足した「親の会」が、1997年(H9)に任意団体「多摩草むらの会」を設立。2004年(H16)には「NPO法人多摩草むらの会」として法人格取得しました。現在は同NPO法人に加えて、(福)草むら、(株)グリーン・ガーラ(農地保有適格法人)の3法人による構成となっています。

草むら3法人では、就労支援、自立生活支援、相談支援など様々な支援事業を、就労継続支援B型事業所8か所、就労移行支援事業所1か所、グループホーム2か所、相談支援事業所(一般、特定)2か所など多数の事業所で展開しています。多くの事業所名には「夢」という文字が使われていますが、統合失調症の方は「夢の中の人」と言われていたこともあり、「待夢(たいむ)」、「草夢(そうむ)」・・・など「夢」を入れたネーミングがされています。当会では障がいのある利用者を「メンバー」と呼んでおり、「(障がい福祉サービスを)利用させてもらう」のではなく事業所の一員として尊重し共に事業を進めようという姿勢が感じられます。

当日はビデオによる各事業所および会の活動のご紹介がありましたが、その内容は 多摩草むらの会のホームページでも詳細に紹介されていますので、そちらをご覧ください。
→ https://kusamura.org/
ここでは当日会場での意見交換の中から、活動の注目点や課題などについていくつか紹介します。

●様々な就労内容のB型作業所が8つあることで、メンバーのニーズに合ったマッチングが可能となる点が大変注目されます。障がい者の個性、障害の状況、スキルなどは多様であり、事業所の選択肢が多いことは、より当事者に合った就労の場との出会いが可能となり本人のやりがいにもつながります。また、別のB型作業所に関わる参加者からは、「利用者の高齢化により、これまでできていた作業ができなくなることで就労継続が難しくなる悩みがあるが、同じ法人内で別の事業所への移行が可能であれば就労継続につながり大変いいと思う。」との発言がありました。風間さんは、「メンバーにとって何がよいかを考えて選択肢を広げてきた」、結果として「これだけの事業所に広がった」と27年間を振り返っておられます。

●メンバーの年齢構成では40代、50代が多く全体の半数強を占めており、高齢の親御さんも多くなっています。自身の障がいだけではなく、ヤングケアラーとして親御さんの介護に直面したり、近年社会問題として取り上げられる「8050問題」、家族内で複数の問題を同時に抱える多問題家族のケースも見られ、家族全体に対するサポート、支援が必要になっているとのことです。

また、障がい者本人・家族を支援するとともに、障がい者が社会で安心して充実した生活をおくるためには社会の偏見を取り除かなければならない、とさらに様々な取り組みをされています。その一つとして、多くの人が自然に出会い触れ合う場として「モーニング」(1回/週、事業所で調理した食事各200円)も実施し、地域の方々の利用も多いとのことです。この取り組みは、「福祉の枠を超えて」社会で様々な困難を抱える方たちが立ち寄り、交流し、相談、支援などのきっかけとなる場となることも目指しています。

●多様な事業、事業所、約480名の登録利用者といった大きな法人運営は風間さんの信念と(参加者の言葉を借りれば)「柔軟な頭とフットワークの軽さ」によってけん引されてきたものと思いますが、加えて、様々な実績、スキルのある多くのスタッフや多様な分野の専門家とのネットワークが大きな力となっているようです。また、会を取り巻く地域との信頼関係を築くことも重要です。例えば、グループホームは関係者の理解を得にくいケースが多く見られますが、草むらの会ではこれまで2つのグループホームを設立しています。土地所有者、不動産業者、近隣住民など様々な立場の関係者の理解を得る努力や新たな関わりを築いていく熱意の成果だと思います。これまでの2つのグループホームは通過型(原則、入居から3年までの利用)であるため、将来的にはさらに滞在型グループホーム(入居期限はなし)の設立を目指したいとのことです。

この他にも、人材確保の難しさの要因の一つとなっている給与等処遇環境(注1)の課題、メンバーが受け取る工賃向上のため高い収益確保の経営的課題などにも触れていただきました。

事業所経営としては厳しい状況にあるとのことですが、「『これでいい』ということはなく、やることはまだまだいっぱいある。尽きることはない。」との言葉に、ソーシャルインクルージョン(注2)、ソーシャルファーム(注3)の実現を目指してこれからも走り続ける風間さんの姿が見えるようでした。

これまで障がい者福祉サービス事業について詳しく知る機会がなかった参加者にとっては、事業の現状や課題だけではなく、障がい者の様々な姿や思いを知る機会にもなりました。

(注1)事業所収入の基本となる障がい福祉サービスの報酬は国の定める報酬体系で定められている。
(注2)「社会的包摂」と訳される。誰もが分け隔てなく社会の一員として共に活動しながら支え合うこと。(社会福祉法人草むらHPより)
(注3)海外に多数存在する社会的企業の一つ。一般企業と同様の経済活動を行いながら、その職場では、就労に困難を抱える方も必要なサポートを受けながら他の従業員と共に働いている。(*2と同様)

風間さん、貴重なお話をありがとうございました。多岐におよぶ事業展開や様々な課題など大変盛りだくさんの内容でした。

(2024.7.31[Wed]記載)


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