■ テーマ: 『団地・マンションの温熱環境改修』〜補助金・助成金利用で外断熱改修を実現〜 ■講師: 金子 勲(かねこ いさお)さん(株式会社A&Cサポート金子勲一級建築士事務所、日本外断熱協会正会員)
金子さんは、団地・マンションの省エネ改修の設計・管理・コンサルタントの仕事をしておられます。外断熱化を進める仕事に携わる以上、自らも外断熱住宅を体験する必要があると、たま・まちせんが手掛けた外断熱のコーポラティブマンションである「永山ハウス」住居兼用の事務所を構えておられます。
金子さんには2018年5月の第138回の木曜サロンにおいて、「住宅等の省エネ対策やリノベーションについて」というテーマで、ご自身が手掛けられたパッシブハウスや省エネリノベーションなどの実例を紹介していただいて以来、6年ぶりになります。
近年、国や東京都などでも住宅においても温暖化対策として、温熱環境を改善するため外断熱化を進めようとしており、そのための補助金制度や助成金制度が充実してきています。金子さんは中古マンションの外断熱化や省エネ改修を促進するため、これらの補助金・助成金を活用することに早くから着目され、管理組合に対する支援業務を多く手掛けられるようになりました。
まず省エネ改修とはどういうものか、いくつかのステップに分けて説明していただきました。 ステップ1は開口部の改修で、窓や玄関ドアなどのカバー工法による取替えです。共用部の改修が難しい場合には、内窓設置や断熱ガラス(スペーシア、ペアガラス等)への交換を行うこともあります。
ステップ2は屋根の断熱改修で、既存の断熱材にさらの断熱材を付加し塩ビシートで覆います。ステップ3が外壁の断熱化(外断熱)です。ステップ4は床下の断熱化(ウレタン吹付)。ステップ5はその他として、熱交換換気扇などの換気設備改修、太陽光発電・給湯、蓄電池やEVへの対応などもあります。
さらに、現状の住まいでできることとして、エアコンや給湯器、照明器具、家電などの省エネ化。また夏の日射の遮蔽や冬の日射の取り込み対策などもあります。
すでに皆さんご承知の方も多いと思いますが、外断熱工事のメリットとしては、ます第一にコンクリートの劣化を抑えることができ、建物の寿命が延びることがあげられます。二番目としては、建物のコンクリート躯体が外気温の影響を受けにくくなるので、冬は暖かく、夏は涼しい室内の温熱環境となります。その結果、電気代の節減効果、脳卒中やヒートショックの防止などの健康対策、夏には熱中症の防止にもつながります。
第三は、長期的にみて建物の維持管理費の抑制につながります。塗装などの修繕対象の減少や修繕工事の周期の延長などが期待できるほか、個人のレベルでは光熱費や医療費の抑制効果も期待できます。
四番目としては、省エネ改修に対して、内容に応じて国や東京都、多摩市などの様々な補助金制度があり、修繕工事の内容に合わせて、これらを組み合わせて活用することで、実際には工事費の4割程度まで補助金を獲得できた団地もあるそうです。
金子さんの現在のお仕事は、これらの多様で複雑な補助金制度を、各団地・マンションの大規模修繕工事の内容や規模、組合や住民のニーズなどを調整しながら、最大限管理組合のメリットとなるよう補助金を活用した修繕工事を支援することにあります。
一方で、デメリットもあります。管理組合の合意形成のためには、メッリトと同時にデメリットもしっかりと説明し、それを上回るメリットがあるということを理解していただくことが重要だと強調されています。
デメリットには、高価な工事費用、長期的は回収できるとしても光熱費だけで考えると30年はかかる。工事期間が長くなることもあげられます。また断熱材で表面を覆うため、外側から躯体を確認できなくなり、大地震時のクラックや漏水の原因確認などが外側からできないことになります。ほかには国内の実績不足や断熱材が不燃性でないこと、表面強度が弱いため、階段室などでは損傷の可能性もあることなどがあげられます。
金子さんが手掛けられた、補助金を活用した省エネ改修の施工事例をいくつか紹介していただきました。
@ビスタセーレ向陽台(1993年建設、築30年 7棟160戸、5〜6階) 大規模修繕、給排水管更新、外断熱 工期2020.5〜2021.1 補助金受給額:1憶2500万円(工事費の28%) (参考記事 マンションタイムズ2020.11.1.、2020.12.1 建築知識2022.9)
Aエステート貝取-2(1983年建設、築40年 14棟293戸、3〜5階) 大規模修繕、給排水管更新、サッシ・玄関ドア改修、外断熱 工期2021.5〜2023.1 補助金支給額 ・長期優良住宅化リフォーム推進事業:2億930万円 ・多摩市優良建築物整備事業:1億4,650万円 合計:4億3,950万円(工事費の約30%) (参考記事 朝日新聞2023.1.4 日経アーキテクチュア2022.7.28 日経TEWCH2022.7.28 建築仕上技術2022.9 マンションタイムズ2021.9.12 住宅新報2023.3)
B花見川住宅(1968年建設、築55年 40棟1530戸、5階) 大規模修繕、外断熱 工期2021.4〜2024.1 補助金受給額:8憶2200万円(工事費の27%、外断熱工事の85%) (参考記事 日経TEWCH2022.1.31 日経アーキテクチュア2022.7.28 朝日新聞2023.1.4 )
C他に都心部の単棟型マンション、習志野市のマンションの事例
各事例の特徴や特に外断熱工事における工夫や様々なディテールの問題点、補助金獲得のための工程上の工夫など、詳細に説明していただきましたが、詳しくご紹介できず残念です。それぞれの事例が掲載された雑誌。新聞等の記事を記載しましたので、ぜひ参考にしてください。
最後に、金子さんの経験から”外断熱改修はなぜ普及しないか”という分析を話していただきました。
・日本の省エネに対する基準が低く、みな我慢しているのが現状 ・工事費が高く、大規模修繕でも予算が不足すると初めに外断熱が除外される。 ・住民の高齢化や外断熱に対する理解不足から合意形成が困難 ・認知度を上げるための、行政、施工会社、設計事務所、管理組合等への広報が不足 ・経験や実績が不足しており、ノウハウや定量的なデータが無い ・既存建物は内・外の2重断熱となり、施行の収まりの困難さ、合意形成や補助金等の獲得のための雑多な業務が多い ・国や自治体等の補助金の不足や外断熱に対する補助の薄さなど、外断熱促進のための制度上の不備 ・新築施行会社、大規模修繕工事業者、設計事務所などは外断熱の専門性が低く、煩雑な業務を敬遠しがち
金子さんの悩みや仕事上の苦悩までも想定される多岐にわたる内容でした。自分自身の団地に照らしてみても納得してしまうことが多くありました。
質疑応答の中でも、実際に外断熱を実施したものの、想定した補助金が下りず、北面など一部分の外断熱しか実施できなかったという例や、乾式外断熱を実施したが、工事中の騒音がひどくとても我慢できるものではなかったという例など、外断熱工事に踏み切った団地においても、様々な問題があることがわかりました。
金子さんは補助金獲得実績がほぼ100%ということであり、外断熱及び実施にあたっての補助金・助成制度などの経験や知識、人的ネットワークが豊富で、これから実施を検討する団地・マンションにとってはとても心強い味方になると思います。団地間の補助金獲得競争のような状況も生まれてきており、国等の施策動向や補助金関連の情報もとても気になるところです。
金子さん、お忙しい中、ありがとうございました。
(2024.3.31[Sun]記載)
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