■テーマ: 「オープンした多摩市立中央図書館の特色〜建設構想から運営まで〜」 ■講師: 萩野 健太郎(はぎの けんたろう)さん( 多摩市教育委員会 教育部 中央図書館整備担当課長 )
萩野さんは、IT関連の民間企業を経て平成20(2008)年に多摩市役所に入庁されました。これまで庁内システム管理部門など主にIT関連の部門に従事され、平成31(2019)年度から図書館整備をまかされ、基本設計が始まったころから現在にいたるまで担当されています。
多摩中央公園の一角に、地形を生かして地上2階、地下2階の4層構造の延べ床面積5437.47平米の建物が建設されました。都市公園内に建設したため、建設費には都市計画税を充当しています。地上の2階層は一般に開放される閲覧室等、地下の2階層は書庫、事務スペース、駐車場等となっています。
2階は中央公園の大池に面するレベルにあり、おしゃべりも楽しめる「広場系開架」とし、一般開架と子ども向け開架、おはなしのへややカフェ、有料で団体利用も可能な活動室も設置しています。おしゃべりを楽しめる工夫として、公園の雰囲気を醸し出す鳥のさえずりのBGMを流しています。また、多摩市に暮らしておられた絵本作家の渡辺茂男さんのコーナーとして、代表作の「もりのへなそうる」から名前をとった「へなそうるのへや」も設けています。
1階はレンガ坂からの玄関口になり、静かな環境で研究や読書ができる「静寂系開架」とし、閲覧学習室のほかに静寂読書室、個人研究室、10人程度で利用できるグループ研究室も設置しています。玄関を入ると目につくのが、階段風の「ステッププラザ」です。座って読書もでき、本のディスプレイなどをしていますが、この空間で講演会や子供たちへのお話しなどの多様な使い方ができそうです。ステッププラザの横には1階のレンガ坂から2階の中央公園に通り抜けることのできる階段とエスカレータが設置されています。
収容可能な蔵書数は約60万点で現在は40万点とまだ余裕があります。移転前の本館の蔵書数20万点の3倍の蔵書数となります。また、建物は消費エネルギーを50%以上削減する「ZEBReady」の認証を受けており、建設で伐採された樹木を館内の家具等に有効利用するなどの環境への配慮も行われています。
団体登録をすれば有料で市民活動に使える活動室、カウンターにお申し出いただければ使えるグループ活動室、多様な使い方を提案できそうなステッププラザなど、市民の利用の利便性にも工夫が施されています。
2016(H28)6月から2017(H29)3月にかけて、柳田邦男氏を委員長とする基本構想策定委員会を設置され、そこで、「知の地域創造」というビジョンが提唱されました。”豊富な資料で市民の「知る」を支援し、知的インフラの側面から市民による地域づくり・まちづくりを支える拠点”としようというものです。
基本構想作成の後、それまでに検討されていた建設予定地が変更され、基本計画の策定は2018(H30)2月から8月にかけて行われました。基本計画をもとに設計業務のプロポを行い、基本設計・実施設計は2019(H31)2月から2020(R2)5月にかけて行いました。設計の主要なポイントとしては、充実した開架、市民が交流できる広場スペースの確保、市内の図書館ネットワークを支えるバックヤード機能と地域奉仕機能の充実、環境配慮型の建築というものでした。
建設工事はコロナ禍の中で進めることへの疑問もありましたが、市民待望の施設でもあることから、2021年(R3)3月から2023(R5)3月にかけて行われました。総工費約45億円でした。建設工事と並行して、中央公園の伐採した樹木を有効活用するため、多摩グリーンボランティア森木会やグリーンライブセンターの協力のもと「中央公園のみどりの記憶をつなぐプロジェクト」を実施しました。ほかではあまり例のない取り組みとして、市民や子供たちと一緒に「樹木伐採起工式」を行い、伐採木を活用した木のおもちゃづくりやミニ本棚づくりなどの木工体験や炭焼き体験、樹木観察会や植樹体験会などのイベントのほか、図書館内のテーブル、ベンチや木のしおりづくりなどを行いました。
中央図書館の開館と同時に、運営中の図書館本館からの移転作業や本館閉鎖なども進め、市民の提案による本館閉館イベントとしてナイトライブラリーも行った後、2023(R5)年5月7日の17時で本館が閉館されました。
2023(R5)年7月1日、雨の中でしたが開館記念式典を行い、11時に中央図書館の開館に至りました。初日は11,000人、翌日も10,900人の来館者があり、市民の期待の大きさが感じられます。
今年は、多摩市立図書館設立の50周年にもあたります。その関連イベントの企画も進められているところであり、「知の創造拠点」としてまちづくりに活用していく図書館をめざすということです。
基本設計・実施設計を担当した佐藤総合設計事務所の河田健さんは、当たま・まちせんの理事でもあり、設計に携わった立場からのコメントもいただきました。地形に沿って造成することで極力排出土を少なくし、結果として円弧状の建物となったこと、公園の中の図書館として、あまり目立たない、公園に開かれた空間をめざしたこと、建設前のレンガ坂から公園にアプローチする園路の記憶を施設内の取り込み、ステッププラザを通じてレンガ坂から直接中央公園に抜けられる構造としたことなどの話を聞くことができました。
「中央公園のみどりの記憶をつなぐプロジェクト」の仕掛人でもある祐乗坊さんも参加されていて、企画の発想から実施に至るまでのお話しや、中央公園の伐採木から、さらに街の伐採木の活用にまで企画を練られていることなどもお聞きできました。
多摩市の図書館には、URから引きつがれた多摩ニュータウンの様々な計画・検討資料や膨大な図面資料のほか、ニュータウン開発に深く関わってこられた成瀬氏の個人所有の資料なども集まっています。これらは一部は整理され公開もされていますが、まだ未整理の資料も多くあるようです。これらのニュータウン関連資料の整理や活用など、まちづくりに関わる市民や市民グループと一緒にできることもあると感じました。
(2023.7.28[Fri]記載)
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