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2022年09月分

第162回(2022年9月15日)

■テーマ:「多摩センター・落合・鶴牧地区のパブリックアートについて」
■講師: 小林清(こばやし きよし)さん(トムハウス運営協議会まちづくり部長 )

小林さんは旧日本住宅公団の出身で埼京線各駅前地区、光が丘ニュータウン、晴海トリトン・スクエアなどの開発業務を担当してこられました。1975年から多摩ニュータウンに居住され、現在はトムハウス運営協議会まちづくり部の部長として地域に密着したまちづくり活動に携わっておられます。

トムハウスは、多摩市の鶴牧・落合・南野地区のコミュニティセンターですが、運営協議会の活動として「まちのたからものさがし」があり、地域内外のまち歩きを通じて様々な「たからもの」を見つけ、それをマップとしてまとめられています。小林さんは、『再発見することは、まちあるきの楽しみでもあり、地域の構造を知ることができ、防災などわがまちのまちづくりを考える基本でもあります。』とおっしゃっています。

多摩センター駅から落合、鶴牧にかけての地域は、先進的な郊外型まちづくりの例として、国内外で高い評価を得ていますが、空間デザインの一環として、美術家や造形作家の数多くの優れた作品が、当初から計画的に配置され、パブリック・アートの宝庫といえる状況にあります。これらのパブリック・アートが、住まい手やまちを訪れる方にうるおいや安らぎをもたらし、地域の価値を高める重要な役割を果たします。このような、まちかどにアートがあふれたまちづくりができたのは、旧住宅都市整備公団の発注者の思いと、受け手であるプランナーやコンサルタントの感性があったからです。

しかし、まちができて45年が経過するなかで、当初のまちづくりに向けた物語性や、携わってきた人たちの思いは風化し、後世の人たちに継承されないままになっています。また、時代とともにアート作品も毀損したり、盗難にあったり、補修の過程で陳腐なものに置き換わってしまったりということが同時に進行しつつあります。

そういう危機感もあり、2018年から4ヶ年をかけて、パブリックアートの現状や製作者を掘り起こし、製作意図を探りながら記録として残し、後世に伝えていくことができればという思いから、このガイドブックが作成されました。

ガイドブックの紹介は、小林さんの案内でガイドツアーをしているように感じられました。多摩センター駅に降り立ち、パルテノン大通り、パルテノン多摩屋上のきらめきのひろばをとおり、中央公園、宝野公園、奈良原公園、鶴牧東公園、鶴牧西公園と落合鶴牧地区の特徴である緑のリングを巡って、唐木田駅まで至る道筋です。

小林さんは、この地区のパブリックアートには、とんがったものや奇をてらったものはなく、やさしく語り掛ける野仏や庚申塔のような作品ばかりだとおっしゃっています。新しい伝説や言い伝えがはじまり、アート作品が身近なあだ名で呼ばれるようなふるさとづくりにしたいという、計画者やデザイナーの思いを感じるともおっしゃっています。
いくつか、個々のアート作品をご紹介します。

多摩センター駅を降りると、重厚なデザインのストリートファニチュア(街路灯、ベンチ、橋の手摺りなど)が目につきます。統一された鋳鉄製の素材を用い、耐久性やメンテナンスフリーに配慮したものになっています。

パルテノン大通りの床には全部で22枚の絵タイルがはめ込まれています。絵タイルは、世界の都市広場が描かれており、洋画家の渡辺豊重氏の4点の作品と旧公団の職員の人たちの作品だそうです。厚さ22センチの象嵌づくりという特殊な製法の有田焼磁器タイルでできています。残念ながら渡辺豊重氏の作品のうち2枚は毀損しモルタル塗りに置き換えられてしまっています。

パルテノンの大階段の屋上に登ると、ステンレスの大パーゴラの下に3枚の巨大なモザイクタイル画がはめ込まれています。全国から集まって住むニュータウンにちなみ、日本近海の北から南の海に棲む200種の魚類を描いた「日本魚類図譜」です。洋画家の古川清右氏の原画と氏の現場での制作指導により、イタリア産の色違いの天然色の大理石、30万ピースが組み込まれています。

パルテノンの屋上にはステンレスの列柱に囲まれた池のある「きらめきの広場」がありますが、その周囲には古代中国の神話にある天の四方の方角をつかさどる、四神獣をイメージしたゲートのオブジェがあります。青龍(東)、白虎(西)、朱雀(南)、玄武(北)と、そうだったのかと確かめながら見るのも面白いと思います。

鶴牧・落合地区は4つの近隣公園(宝野公園、奈良原公園、鶴牧東公園、鶴牧西公園)をリング状につないだ緑の空間が特徴ですが、その中には多くのパブリックアートがちりばめられています。なかには残念なエピソードもありますが、いくつか紹介します。

残念なものとして、奈良原公園の大きな花鉢の台座があります。当初直径80センチの大きなシャコガイの花鉢が設置されていましたが、ワシントン条約により取引が禁止され、希少価値となってしまったこともあり、設置直後に盗難に合い、固定ボルトのついた台座のみが残されています。

もう一つの残念なものに、宝野公園の2か所の時計塔があります。設置当初はデジタル時計を組み込んだコールテン鋼のオブジェでしたが、表面の黒錆で内部の腐食を防ぐというコールテン鋼の意味が理解されていなかったことから、時計の故障に伴い動物の時計塔に姿を変えてしまいました。

富士見通りには未完の彫刻台座があります。当初はブロンズ像を設置する予定だったものが取りやめとなり、台座のみ置かれています。これの有効活用を考えることは、ニュータウンに住む私たちにバトンを渡されているのかも知れません。

鶴牧東公園は通称「鶴牧山」と呼ばれ、関東平野を取り囲む山並みとニュータウンの全体を展望でき、初日の出や映画のロケなどに使われる名所となっています。鶴牧山の山頂にある大小二つの石は、「ドラキュラ親子の棺桶」と呼ばれ、”夕暮れになると棺桶を開けてドラキュラ親子が現れ、子供たちは早く家に帰りなさいという”、ニュータウンの都市伝説となって親しまれることを願っておかれました。

ほかにも、富士見通りの桜並木こしに富士山を展望できるガゼボ、鶴牧東公園のじゃぶじゃぶ池のシャコガイの台座とブロンズの鳥の彫刻、鶴牧第2公園の現代の富士塚など、興味深いものがたくさんあります。

鶴牧西公園は、雑木林を残した尾根を活かし、日本の農耕文化の継承をテーマにつくられています。ここには八木ヨシオワールドともいえるような、氏の作品がたくさん置かれています。果樹園を設けた斜面には、ところどころに水場があり、ブロンズの果樹のオブジェが置かれています。プレイロットには氏の得意とする石のオブジェがあり、氏は「ストーン」と名付けています。

唐木田駅前には、朝倉響子氏の連続作品「JILL」像の一つが置かれており、むかしの菖蒲田を偲ばせるデザインの駅舎のステンドグラスや絵タイルもあります。

最後に、誕生から成長過程を経て、新陳代謝を繰り返しているのが今のニュータウンであり、これから一部のマスコミで言われるようなオールドタウンにならないためには、どう新陳代謝をうまくやっていくかであり、自治体、住民、ニュータウン関係者の手腕にかかってくるとおっしゃっています。

また、一番貴重な「まちのたからもの」として「鶴牧山」を取り上げておられます。ニュータウンをとりまく周囲の環境の中でわがまちを見つめることのできる、視座としての場所であり、気持ちをリセットできる思索の視座でもあると評価されています。このような視座となる場所がニュータウンにつくられているということが大きな財産だといわれます。

今後のガイドブックを活用したトムハウスの事業としては勉強会やまち歩きなどが予定されています。なお、パブリックアートガイドブックは、トムハウスの窓口で、800円/冊で購入できます。ご紹介できなかった作品や、詳細な内容紹介はガイドブックでご覧いただき、ガイドブックを片手に、ぜひ歩いてみてください。

小林さん、とても楽しいパブリックアートのガイドツアーでした。ありがとうございました。

(2022.9.19[Mon]記載)


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