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記録・報告

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2021年11月分

第157回(2021年11月18日)

■テーマ:「多摩ニュータウンの開発前・後の災害を考える。」〜特別展「災害と多摩」で扱った事例を通じて〜
■講師:橋場万里子 (はしば まりこ)さん(公益財団法人多摩市文化振興財団学芸員 )

橋場さんはパルテノン多摩の学芸員として『武蔵国一之宮』『関戸合戦』『アニメーションと多摩』『災害と多摩』『ニュータウン誕生』などの展示を担当してこられています。今回は、その中から2017年の特別展「災害と多摩」での調査事例から、多摩ニュータウンに関連する土砂災害と水害について紹介していただき、土地の大規模改変を経た多摩ニュータウンでは、開発前と後で災害のあり方はどのように変化したのか、また多摩ニュータウン開発以降のさまざまな課題などの話題を提供していただきました。

開発前の土砂災害として明治8年の暴風雨に伴う記録が残っており、寺方や落合地区での被害や、白山神社では土砂崩れにより平安時代のものと思われる十一面観音が出土したという記録もあるそうです。

多摩地域には、土砂崩れ、山崩れを表す「びゃく」という地名があったとのことです。唐木田の現大妻女子大学近辺には「大びゃく谷戸」という地名がありました。また鶴牧西公園の川井家そばの山林は、峰岸松三氏の記録によれば関東大震災で崩れ「びゃく山」と呼ばれていたそうで、この山林は現在も昔の地形が残されています。

関東大震災では、人家の多い谷部での家屋の崩壊や橋の崩壊などの記録が多いが、山の上の寺社の被害や連光寺の集落が崩壊したという記録もあり、記録にはあまり残されない山間部での被害や土砂崩れもあったのではないかと推定されます。

多摩ニュータウンの開発前は土砂災害が多かったものが、造成により危険な谷が埋め立てられて、土砂災害の危険性は低くなったのではないかと想定されます。東京都の土砂災害計画区域マップを見ると、崩壊危険区域は近接する町田や八王子の丘陵地に比べると格段に少なくなっており、多摩ニュータウンでは自然地形の危険区域はほとんどありません。

明治以前の水害については、多摩川の記録は多く、大栗川も残っていますが、乞田川に関する記録はほとんどありませんが、安政6(1859)年の「多摩川洪水記」に乞田川の記述がみられます。

多摩市域にも大きな被害をもたらした明治43年の水害を記録した『東京府洪水記念図』(多摩市デジタルアーカイブで閲覧可能)でも、川の存在すら記録されていません。しかし、伝承記録としては「毎年台風により川があふれた」、「稲がみずに浸かった」という記述があり、また、橋や道路の決壊被害の記録も残っていることから、乞田川も毎年のように洪水の被害があったと想定されます。昭和になると昭和33(1958)年の狩野川台風、昭和41(1966)年の4号台風による洪水の記録が残っています。

乞田川の河川改修は、多摩ニュータウンの開発とともに昭和44年〜50年にかけて実施されています。しかし、それ以前の航空写真を見ると、昭和30年代初めにはすでに河川改修が行われており、昭和36年の改修流路は、ニュータウン開発後の流路と異なることが分かります。昭和33年や41年の洪水被害の図も、その当時と河川の流路と照らし合わせてみなければならないということが分かります。

多摩ニュータウンの開発後は、乞田川の洪水被害はほとんどなくなり、大栗川合流部に近いあたりなど限られた場所で小規模な被害がみられるばかりになっています。

橋場さんは、多摩ニュータウンの開発により、土砂災害や洪水をひこ起こす地形などの自然条件が改善され、大きな災害の発生はみられなくなったが、微地形や土地条件による災害発生やインフラの老朽化に伴う被害の発生などは今後留意していく必要があるということ、また、開発前の旧地形がニュータウンに与えている影響は不明だが、開発当時の地形と対照しながら災害の様子を見ていくことも必要ではないかと、まとめとして指摘されています。

報告の後、多摩ニュータウンの大規模造成地は、関東大震災のような大規模直下型地震を経験してないなかで、安全性はどうか。また、乞田川の河川改修がニュータウン開発前と流路が異なるのは、西武による開発によるものではないか。これからは災害時のSNSによる様々な声を分析することも有効な方法になりうる。富士山噴火による災害記録はないかという疑問に対し、宝永噴火では火山灰が9p積もったという記録があること。などなど、参加した皆さんと活発な意見交換ができました。

(2021.11.30[Tue]記載)


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