多摩ニュータウン
多摩ニュータウン・まちづくり専門家会議
 
E-mail


まちせんトップ

木曜サロン

記録・報告

%bnindex%...more

2021年09月分

第156回(2021年9月16日)

■テーマ:「居住支援協議会とこれからの住宅政策〜多摩市住宅マスタープランの改定に関わって〜」
■講 師:松本 暢子(まつもと のぶこ)さん(大妻女子大学社会情報学部教授 工学博士)

松本先生は、数年前に都心に移るまで大妻女子大学多摩キャンパスに24,5年間勤務され、その間多摩市の住宅政策やまちづくりに関わり、住宅マスタープランの策定、居住支援協議会等の委員長や会長として主導的な役割を担ってこられました。

第3次住宅マスタープランが策定された2017年度は、多摩市の人口は15万弱で徐々に減少に向かい、高齢化が社会問題となっていた時期です。多摩市民の定住志向は高く、住民の高齢化とともに子供世代は独立して出ていく。また住宅の新規供給も少ないため人口は徐々に減少していくことになります。住宅ストックは共同住宅主体で新規供給は少なく空き家も多くないという状況で、高齢者の一人住まいや子育て世代ではややゆとりある戸建てが欲しいといった居住者のニーズと住宅ストックのミスマッチが生じていました。

1995年の住宅・宅地政策審議会答申では、自助努力による住宅確保を目指して民間による住宅市場の整備と、一方で住宅確保が困難な人たちに対するセーフティネットの整備が提唱されます。2006年には住生活基本法と住宅セーフティネット法が制定され、「住宅確保要配慮者」が明記されるとともに、福祉政策との連携や民間賃貸住宅の活用を図るものとし、それらの担い手として「居住支援協議会」が位置付けられました。

多摩市では、住宅マスタープランのパイロットプランの一つとして、「住替え・居住支援協議会」が位置づけられ、2018年から2020年までの3年間、協議会を軌道に乗せるまで松本先生が会長として舵取りをしてこられました。

多摩市では、都営住宅の希望者が多いが市営住宅は整備しないという方針であり、高齢者への住宅支援は大きな課題ととらえられていました。そこで、住宅確保要配慮者に対するセーフティネットの構築とともに、住宅ストックを生かして住替えを促進するという方針が打ち出されました。「住替え」という言葉が入っているのが多摩市の特徴で、例えば、検討期間中に中古戸建て住宅への子育て世帯の住み替えニーズを探るため、市内保育園・幼稚園の保護者へのアンケート調査も実施されたそうです。

今年度(2021年)から多摩市居住支援協議会として活動をはじめることになり、住替えについては、事業化への機が熟していないことから居住支援協議会とは切り離して検討することになったそうです。

居住支援協議会は、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(いわゆるセーフティネット法)に基づき設置されるもので、2013年以降東京都が市区町村に呼びかけ,現在では17区8市で設立されています。仕組みとしては、公共団体(住宅・福祉部門)、不動産関係団体、居住支援団体が協力・連携し、要配慮者に対する情報提供、住宅の紹介・斡旋、相談サービス等を実施していくというものです。

松本先生はいくつかの自治体でも住宅政策に関わっておられますが、調布市をはじめ他市区の居住支援協議会の取り組み事例も紹介していただきました。多摩市では、2017年から活動が始まっています。相談事業は年4回、都営住宅の抽選の後に実施され1回10人程度の相談があり、高齢、単身の女性が多いそうです。相談内容も住宅にかぎらず福祉サービスなど暮らしの困りごとに関わる内容などもあります。相談内容が多岐にわたり福祉サービスとの連携も必要となるため、最初の相談窓口が重要となります。そのため2020年からは「居住支援相談窓口」を設置し、電話予約での受付時に相談の概要を把握したうえで、相談会当日には民間賃貸住宅のほか、UR、東京都住宅供給公社、社会福祉協議会などのブースに誘導するという体制にしています。

多摩市の特徴として、UR賃貸住宅の高齢居住者の抱える不安への対応など、相談の内容と住宅ストックとのマッチングの難しさがあります。公共が関与する以上耐震性や居住環境などの住宅の質も確保する必要があります。

相談内容は住宅に限りません。福祉のケースワーカーのような対応も必要となる個別ニーズにも応えていく必要があります。斡旋できる住宅は数はあっても、家賃、居住性能、立地条件などの条件面での問題や貸し手のリスクの問題もあります。

松本先生は、このような地域の住宅事情に見合った、「住宅+あっせん+居住支援」の組み合わせが重要であると指摘されます。今後は生活に不安をかかえる単身高齢者の要支援者が増加していくものとみられ、一層福祉サービスとの連携・協働・役割分担が重要になってきます。真のセーフティネットをどう構築していくか、協議会の運営の問題や地元に精通した協力店、さらに市民の認知度の向上が安心につながると指摘されています。

最後に、これからの多摩市の居住支援、住宅政策のあり方として、相談者のほかにも多くの潜在化しているニーズがあり、これらの把握が重要であること。「居住は人権」という立場で地域包括ケアとの連携を図り、セーフティネットの一層の構築をめざすこと。「住生活」政策、住宅ストックの活用と「住替え」への対応を図ることを提言されています。

参加された方からたくさんのご意見や話題提供もあり、後半は活発な意見交換ができました。生活困窮者自立支援制度における住宅確保と居住支援との関係について、コロナ禍における「居住差別」やNPO団体等によるサブリースを活用した住宅支援、最近の都営住宅建て替えにおける高い高齢化率の現象やコロナ禍での中古マンションの売れ行きなど、また団地の選別や優先順位付けの問題、住宅政策におけ公営住宅などの建物から家賃支援への転換やコミュニティミックスの問題など、話題は多岐に及び大変有意義な時間を過ごすことができました。

(2021.9.28[Tue]記載)


Powered by HL-imgdiary Ver.3.00


永山ハウス
コーポラティブ住宅
(c)多摩ニュータウン・まちづくり専門家会議