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2021年07月分

第155回(2021年7月15日)

■テーマ:「 拙著、”健康快適都市”を基に、アメリカの街づくりの本質を語る」
■講 師: 原田敬美(はらだけいみ)さん(SEC計画事務所代表、前港区長、博士(工学)、技術士(建設)、一級建築士、国際建築アカデミー客員教授(ブルガリア))

原田敬美さんにひさびさにお話を伺うことができました。前回は港区長を退任されて間もない2007年7月でしたので、実に14年ぶりになります。原田さんは昨年、「欧米に学ぶ
健康快適都市」を出版されました。50年にわたる調査・研究の集大成ということです。今回はこのご著書の内容をもとにしたお話でした。

原田さんの専門は建築デザインで、早稲田大学では穂積信夫氏に師事、建築実務は菊竹清則氏に教示を受けられ、何事も書き残すことが大切との指導を教訓にこれまでに翻訳、共著も含め17冊の本と400編の論文などを書き、89〜91年には朝日新聞で「建築と都市問題」をテーマにコラムも担当してこられたということです。

33歳の時に丹下健三氏を座長とする港区長の政策ブレーン会議に参加、それ以降港区の政策づくりにかかわるようになり、区長交代の折に周囲から押されて断り切れず区長になることになったということです。

原田さんはアメリカに2度、スウェーデン1度の3度の海外留学を経験され、そこで世界の建築界をリードするような素晴らしい人たちとの出会いが人生の宝になったそうです。港区長時代には政治の素人ゆえに、しがらみのない公正な行政を実践され、これらの経験から、建築界だけでなく、幅広い分野の人たちとの交友関係を持つことができ、”公正正義”をモットーとしてきた、これが人生観になっていると話されていました。

ご拙著「健康快適都市」からの話題提供は、欧米と日本でのご体験から3つのテーマに沿って話しをしていただきました。ひとつは、市民と行政との距離が近いか、遠いか。二つめは市民と市議会との距離が近いか、遠いか。三つめは役人の意識がPublic Servant(公僕)か市民の支配者なのか。

アメリカテキサス州サンアントニオのウォーターフロント開発は、原田さんが1980年に「日経サイエンス」で紹介され、日本でもウォーターフロントの事例として有名です。かって100年に一度の大洪水に見舞われ、市街地を流れる川をつけかえて、廃川にしまおうという計画が持ち上がった時に、一人の主婦が親しんできた川を守ろうと保存運動を始めたそうです。これをきっかけに行政も動き、ウォーターフロント開発につながったということです。

市街地のグランドラインの7.5m下に川沿いの遊歩道が整備され、川と間には柵も設けられていません。日本と違い、景観を大切にする代わりに自己責任は徹底しているというこです。

サンアントニオのウォーターフロント開発の具体的な内容までは紹介しきれませんが、ここでのポイントは一主婦の問題提起を市の行政は受け止めて、計画の流れも変えて行ったということです。

次に紹介していただいたのは、ニューヨークのBID(Business Improvement District)の事例です。1970年代のニューヨークは南部からの黒人の大規模移民が起こり、当時の市長の黒人よりの政策が市財政の破綻を招くことになった。次の市長は大規模なコストカットや市職員、市警職員の大規模な解雇を行い、これが治安の悪化や行政サービスの低下を招くことになった。こういう状況の中で、市民が資金を出し合って警備員を雇用し、イベントを企画して商店街にお客を戻すなど、住民の力でコミュニティを守ろうという運動が起こってきた。こういうBIDが現在マンハッタンには70あるそうですが、BIDが実現できたのも一人の主婦の提案がきっかけだったそうです。現在のBIDのひとつ、ブライアントパークの例を原田さんご自身が撮影された写真も含めて紹介していただきました。

また、2009年に完成したニューヨーク、ウェストサイドのハイラインは、鉄道高架の廃線を活用した空中庭園として、最近日本でも話題になりましたが、これも、ジュリアーニ市長の時代に取り壊しが決まっていたものを、二人のおじさんが「ハイラインの友達」というNPOを設立して始めた保存運動がきっかけだったそうです。

原田さんは、アメリカと日本の大きな違いは、市民と行政、市民と議会の距離だと指摘されます。アメリカの行政は、おばさん、おじさんでも一般市民の声を聞き入れる度量がある。アメリカの議会は議員自身が法律や条例をつくる。議会に市長や行政幹部の姿はなく、議員だけで議論される。

また、各自治体には都市計画委員会といった部門ごとの委員会が設けられ、市民が傍聴している。市民提案でも、結論が先送りされることはなく即決され、委員長は決められた方針をその場で都市計画局の職員に指示するそうです。

原田さんのお話から、アメリカやスウェーデンの行政の市民へのきめ細かなサービスや親切な対応とこれらに裏付けられた国民の信頼感。議員や市長に求められる高い倫理観、市民への説明能力やディベート力など、日本の行政、議会、議員との隔たりの大きさに、いまさらながら唖然としてしまいます。

最後に原田さんの区長時代を含めて、日本行政の市民への対応や考え方の一端を具体的な例を交えて聞かせていただきました。なまなましいお話で、支障があってはいけませんので、ここでは活字にできないことをご容赦ください。

紹介しきれなかった内容は原田さんのご著書「欧米に学ぶ ”健康快適都市” 〜
新時代を生きる市民による都市像とは〜」で詳しく書かれています。ほかにも、原田さんが実際に見聞されたたくさんの事例やアメリカの都市づくりに関する話題が豊富に掲載されています。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784886142580

(2021.7.28[Wed]記載)


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