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2021年03月分

第153回(2021年3月18日)

■テーマ:「公園に開かれたこれからの公園内保育所〜クロストークから⾒えてきた公園と保育所〜」
■講師: ︓横⼭眞理(よこやま まり)さん((有)横⼭環境計画事務所+カフェ・ドゥードゥー 、(⼀社)園Power )

横山さんは市内に設計事務所を構える建築家で、たま・まちせんの設⽴当初からの会員でもあります。東京建築⼠会に所属する⼥性建築⼠10人で、⼦どもの成育環境を考える(⼀社)園Powerを⽴ち上げられました。今回は、都市公園法の改正により可能性の広がった公園内保育園の在り⽅を提⾔されている(⼀社)園Powerの活動をご紹介いただきます。

「都市公園の再生・活性化」を目的として、2017年に都市公園法が改正されました。この改正により保育所などの社会福祉施設(通所利用)の占有が可能となり、平成31年4月時点で全国で11の保育園が開設されています。ほかに、この改正では民間事業者による収益施設(飲食施設・売店など)もできるようになりました。この背景には、保育ニーズの高まりによる待機児童の増加や保育園施設用地の確保の困難さが指摘されます。都市公園法改正より以前に、2015年の国家戦略特区の改正で公園内に保育所などを設置することが可能となっており、これまでに18の保育園が開設されてます。

「保育園落ちた。日本死ね」という声が大きく取り上げられ、待機児童の増加、保育園の不足が社会問題となるような背景のもとで、公園内に保育園を設置可能とする規制緩和が進みつつあるなか、2016年に杉並区で公園を転用して保育園を設置するという区の方針に対して、子供たちの遊び場を守りたいという住民の反発が起こりました。

議論が平行線のまま膠着するなかで、東京建築士会に所属する村上美奈子さんをはじめとする女性建築家有志により、既存の保育園の改善により、保育園の収容力を増やそうというプランを提案され、杉並区とともに「クロストークイベント”緊急改修アイディア〜待機児童解消につながるヒント〜”」というテーマでシンポジウムを開催されました。シンポジウムには保育園関係者や保護者のほか、行政、設計者など多くの方が参加され、大きな反響があったということです。

このクロストークをきっかけに、 2016年11月村上美奈子さんを代表理事に(一社)園Powheを立ちあげられます。活動目的には「建築士としての経験を活かし、対話のなかだちとなり、よりよい生育環境の構築をめざし・・・」とあります。単に設計者としての立場だけでなく、様々な立場の人たちの知恵やアイデアを引き出し、子供たちの育つよりよい環境を提案し、創出するという理念のもとに活動されています。

2020年1月11日に、クロストーク「保育 ∩ 公園〜待機児童対策を越えた公園内保育園の可能性〜」を開催されますが、横山さんの話から、このクロストークはシンポジウムというイベントの枠を超えた、一つのプロジェクトとして実行されているということがわかりました。

公園内保育所の視察、関係行政や保育事業者、設計者へのヒアリングなどの公園内保育所をめぐるリサーチからプロジェクトは始まります。ヒアリングから、ハードや施設に関する問題、ソフトや運営に関する問題を整理されています。例えば、公園内保育所は占用使用となり更新はあるものの占用期間が10年(20年に更新も可能)で、運営上の制約となっていること。また都市公園法における占用範囲と建築基準法上の仮想敷地という二つの敷地境界が存在することなど、特殊な条件があることもわかりました。

さらに、ラウンドテーブル(円卓会議)を2回開催されます。第1回は事業者・設計者・研究者から話を聞き、現状における課題や解決へのアイデア、公園内保育所への期待などが議論されました。第2回は公園設計の実務者、保育事業者や公園利用の研究者を囲んで、関連制度や役割・機能、活用事例やアイデアなどの議論が行われました。

地域と保育の研究者である横浜市立大学准教授三輪律江氏は地域で子どもを育てることで、コミュニティの醸成にもつながるという「まち保育」の研究・実践者ですが、三輪氏の話として、横浜市の「保育施設による公園活用とマネジメントの在り方研究会」における、いずみ反町公園保育園の設立に至る取り組みの紹介をしていただきました。

公園設計実務者の石川純氏の「都市公園はなんでもできる魔法の風呂敷」という言葉は、本来的な公園の持つべき機能や可能性を示唆するものといえるかもしれません。管理者の都合で禁止だらけの公園の看板は本来の公園の在り方とは言えないですね。

公園利用・子どもの遊び場の研究者である梶木典子氏の話として、阪神淡路大震災の経験から「公園は空いていることに価値がある」と、また災害時の拠点となる公園に普段から地域のの人が行く環境をつくることが大事ということを紹介していただきました。

保育の実践者として、渋谷東しぜんの国こども園の運営者である齊藤紘良氏の投げかけ「公園内保育所は子どもの帰ってくる場所となれるのか」「公園を使うことに責任をもって使い方を考える」は印象的です。また、公園の使い方を決める仕組みを地域が担う「協議会」に期待されていました。

ヒアリングと2回のラウンドテーブルを通じ3つの仮説を組み立てられました。「公園から考えると保育園がもっとよくなる?」「境界エリアを工夫すれば保育環境を守り公園も活かせる?」「公共性があればひらかれた施設になる?」この仮説に基づき、クロストークイベントを企画、園Powerの提案をまとめられています。

講演では、都市公園法の改正に深く関わり、公園の未来活用や「公園を使い倒せ!」を唱える SOWINGWORKS代表の町田誠氏と、先駆的な子育て公園施設「てくてく」の設計者である長岡造形大学教授の山下秀之氏の講演が行われ、その概要を紹介していただきました。
また、参加者全員を3つのテーマで6グループにより「あったらいいな!こんな公園内保育所」というフレーズのもとにワークショップが行われました。

園Powerは、この一連の活動から「保育∩公園」の理想の形として提案をまとめられています。提案は、公園内での配置や空間の配置などの「空間のパターン」、使い方、機能、防災、地域との関わりや運営などに関する「アイデアカード」、専門家のサポートや在り方研究会などを活用して実現していく「プロセスイメージ」から構成されています。

空間パターンの例として、地域に開かれた1階と2階の上手な関係、地域の街なみをつくる「まちの縁側」、バッファーゾーンに可能性を見つける裏のない保育所などがあります。アイデアカードは、地域施設・公園施設と組み合わせるアイデアカード、保育所の機能を地域の人が利用するアイデアカード、屋外エレメントのアイデアカード、防災のポテンシャルを高めるアイデアカード、保育∩公園を実現・継続するアイデアカードなどがあります。プロセスイメージは、計画から事業者の公募・決定、工事、開園、占有利用期間終了という流れに沿って、あり方研究会、協議会、専門家などのかかわり方を図式化しています。

今回のまとめにあたって、横山さんのお話と合わせ、「保育∩公園」の冊子を参考にさせていただきました。横山さんのお話も、この冊子の内容もとても盛りだくさんで奥深いものがあり、十分にご紹介できませんでした。ぜひ、興味のある方は、冊子をご覧になってください。
入手は、園Powerのホームページもご参考にしてください。
http://www.en-power.org/index.html

保育園と公園という関係だけでなく、様々な公園の利用や公園内施設の可能性などのヒントもたくさん盛り込まれています。多摩市では中央公園内に図書館が建設中ですし、公園のPFI事業も始まろうとしています。加えてパルテノン多摩も大規模改修中で、完了後には公園との連携も考えた運営がなされるはずです。多摩ニュータウンには、あまり使われていない公園もあり、その活用や活性化も課題となっています。こういう問題に対しても、たくさんのヒントやアイデアをいただけたような、横山さんのお話でした。ありがとうございました。

(2021.3.26[Fri]記載)


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